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刑法に芸術品密輸罪を設ける必要性

芸術品密輸事件が頻発しているにも関わらず、法の適用という面では多くの問題が残されている。芸術品の密輸行為は、犯罪の構成という点で特殊性が存在するため、現在の刑法の枠組みにおける各種密輸行為への罪名ではカバーすることができない。よって、こうした犯罪を取り締まるため、刑法は芸術品密輸罪の新設を考慮すべき段階に来ている。

芸術品密輸行為の取り締まりが直面している困難

現状から見て、芸術品の密輸行為は社会に与える危険性が大きい。これに伴う脱税額は、ややもすると百万元から一千万元にも及んでいる。これは一般的な普通貨物や物品の密輸行為の危険性とは比べ物にならない。また、芸術品の密輸行為はマネーロンダリング、脱税、詐欺等の関連犯罪を引き起こしやすいため、厳しく取り締まるべきである。しかし、立法上の不備から、司法機関が芸術品の密輸行為に対して主観的な故意が存在すると認定する難しさ、責任の主体認定の難しさ、納税価格の計算の難しさ等が存在している。

芸術品の密輸は刑法第153条の普通貨物・物品密輸罪の構成要件に適合しているものの、芸術品は一般の商品とは異なり、投資による価値上昇の可能性があるばかりでなく、個人的なコレクションとすることもできるし、自ら美術館を建造したり、寄付することにより社会に貢献することもできるものである。したがって、刑事責任を負うべきか否かを決定する際や、どのような刑事責任を追及するかについて、しっかりとこの両者を区別すべきである。たとえば、かつて北京で象牙密輸事件が発生したことがあるが、その容疑者の中でも象牙密輸の目的が利益獲得である者もいれば、個人的なコレクションや友人への贈り物である者もいて、如何に法律を適用するかについて、司法の実務において難問に直面することとなった。

芸術品密輸行為は、刑法第153条から切り離すべきである

刑法第153条の規定では、既に芸術品の密輸行為をカバーしきれなくなっている。また芸術品を輸入商品の第21類に組み入れ、贅沢品と同類に分類することも理に適っているとは言えない。芸術品の密輸行為を認定して処理する難問を解決するため、司法の実務において芸術品密輸行為を刑法第153条から切り離し、刑法第三章第二節に「芸術品密輸罪」を新たに設けることが必要であると考える。その主な理由は次の通りである。

芸術品と普通貨物・物品の特徴は異なる。種類の点からも、価値の点からも、役割の点からも、一般の人々の認識という点から見ても、この両者には大きな違いがある。しかし現行の法律では芸術品を普通貨物・物品と混同しているため、事実上芸術品の特徴を反映しないことになってしまっている。芸術品にはその含まれている文化的価値により社会への公益性が生まれるだけでなく、投資対象として高い経済的利益を得ることもでき、文化性と経済性という2種類の特徴を兼ね備えていることから、普通貨物・物品と同列に扱うことはできない。

芸術品の密輸と普通貨物・物品の密輸犯罪の流れには、明らかな違いがある。芸術品の密輸事件には、業界と業界連鎖が関わってくる。芸術品の輸入は競売業者、買手、仲介人、国際貨物代理会社、運送会社、通関業者が関わり、価値の高い芸術品の場合には芸術品基金、銀行、信託会社等の金融分野も関わることとなり、これに伴って多くの芸術品への投資家も巻き込むこととなる。実際の事件において、芸術品密輸事件に関わる犯罪の主体には、買手、仲介人、運送会社等の複数の責任主体が関わることとなる。実際に收益を得る者と密輸行為者が一致しないため、刑事責任の認定、分担、移転等での難問を生むことになる。芸術品密輸行為に特定された罪名を設けることができれば、関連する法律適用の問題を有効に解決することが可能となる。

芸術品の密輸は、普通貨物・物品の危険性やその結果に明らかな違いがある。国の税收の流失金額という点から見ても、芸術品の密輸行為が業界全体に及ぼす悪影響ならびに関連犯罪に派生するという点から見ても、芸術品の密輸の危険性やその結果は、何れも一般的な意義での普通貨物・物品の密輸の危険性やその結果を凌ぐものであり、芸術品の密輸は、普通貨物・物品の密輸から切り離すべきである。

また、司法の実務において多くの容疑者は、国外から購入した芸術品につき税関に申告して納税する範囲にあることを知らなかったことを理由として、密輸についての主観的故意が存在することを否認している。芸術品の密輸行為が単独の罪名となった場合は、犯罪の対象の特定がより明確となり、司法関係者が容疑者・被告人の主観的故意を判断する際の便宜が図られることになろう。

「芸術品密輸罪」を新たに設けることの実現可能性

中国の密輸犯罪の対象のカテゴライズ・立法の基準および刑事事件として立件に罪名を確定する際の一般原則からみて、刑法の中に芸術品密輸罪を設けることには実現可能性がある。芸術品の密輸罪は、次のように定義される。税関の法規に違反し、芸術品を密輸し、脱税額が多額な行為。

法の適用という問題を解決するため、一般的には2つの方法がとられる。一つは、新たに罪名を設けることで、もう一つは現在ある罪名に補足説明を加えることである。新たな罪名を設ける場合、新たに設ける法律条項と現有の法律条項の均衡と適切さの問題を考慮する必要がある。では、これを立法体系から見ると、刑法第153条と第151条・第152条の間には一般法律条項と特殊法律条項という関係があり、この両者の区別は犯罪対象の違いにより、一般法律条項と特殊法律条項の関係の比較を通じて、次の3種類の法則を見出すことができる。

特殊法律条項の中の犯罪の対象は明確で、識別が容易である。例えば武器・弾薬密輸罪における各種軍用武器・弾薬および爆発物等や、貴金属密輸罪における黄金、プラチナ等の貴金属などである。芸術品とは、一般的に造型芸術作品を指している。これには2つの要素が含まれている。一つは作品上の線、行、色、光、音の調和と融合であり、通常は「形式的成分」または「直接的成分」と呼ばれている。いま一つは題材であり、通常は「表現的成分」または「連想的成分」と呼ばれている。芸術品の種類は多岐に渡る。これには水墨画、抽象絵画、楽器、彫刻、文物塑像、砂岩、模倣砂岩、瑠璃の置物、鉄による芸術、銅による芸術、ステンレスによる芸術、石刻、銅刻、グラスファイバー・樹脂・ガラスによる作品、黒陶磁器・赤陶磁器・白陶磁器などの陶磁器、ガラス瓶、旧式瑠璃、水晶、木彫、フラワーアレンジメント、レリーフ等が含まれる。新たに「芸術品密輸罪」を設ける前提の一つは、上記の複雑で広い範囲をカテゴライズし、芸術品の意味と外的特徴を明確化し、特殊法律条項における犯罪の対象の明確化するという要請に適合させ、これにより現行の法律体系と調和するようにすることである。

特殊法律条項の中の犯罪の対象を、その性質の違いから2種類の分けることができる。一つは社会に対して一定の危険性を持つ物品である。例えば武器、弾薬、核物質、偽札、猥褻物、廃棄物などである。いま一つは、犯罪の対象に特殊な価値があるため、国が経営を禁ずるか制限している物品である。例えば文物、稀少金属、稀少動物、稀少動物による製品、稀少植物、稀少植物による製品などである。前にも述べた通り、芸術品は、それそのものに経済的な価値があるだけでなく、大きな文化的価値があるため、国はこれらの輸出入に対して監督管理を行う必要がある。

特殊法律条項の刑事責任を確定するという点では、主に特定の犯罪対象の数量およびその危険性が考慮される。例えば武器・弾薬密輸罪には銃器またや弾薬の数量があり、文物密輸罪には密輸文物の具体的な数量および文物の等級が規定されている。この点において、芸術品密輸罪の刑事責任を確定する際には、主に芸術品の実際の取引価格が考慮されるべきである。芸術品の取引価格は、次の具体的な状況に基づいて確定することができる。その芸術品が競売品である場合、競売成約額を参考にすることができる。また、芸術品に輸送保険を付保していた場合、保険契約上で確定した目標物の価値を参考にすることもできる。さらには送金ルート、資金の流れ、会計帳簿等の書類を踏まえ、総合的に認定する方法もある。

(法制日報より)

作成日:2014年06月20日