最新法律動向

広東省の少女、ネット上の「人海戦術検索」による個人叩きのため投身自殺-ネット上のプライバシー保護の徹底が必要-

 ネット上の書き込みと個人叩きによる権利侵害の裏には、ネット上のプライバシーについての法的保護の瑕疵が存在することが明らかとなっており、現有の法律に基づいて、ネット上の行為を制度化する必要があるとの動きがある。

  

 昨年12月、女子高生琪琪は、広東省陸豊市の望洋河橋から投身自殺した。その前日、あるブティックのオーナーは琪琪が洋服を万引きしたものと疑い、琪琪がショッピングしているところの監視カメラ映像からの切り抜き写真をウェイポーへ書き込みをし、「人海戦術検索」と呼ばれる不特定多数のネットユーザと検索エンジンによる情報提供を試みた。その結果、瞬く間に、琪琪の個人情報がネット上にさらけ出され、ネット上での悪罵と身近なクラスメートからの譴責の対象となった。

 琪琪の自殺により、「人海戦術検索」の是非を巡る論争が再び巻き起こった。

 12月17日、国のインターネット関係部門の責任者は、当該事件について、「人海戦術検索は、ネットを通じた一種の暴力行為であり、不道德かつ違法な行為である。人海戦術検索のための映像を掲載し、悪影響を及ぼし、他者の適法な権利および利益に損害を与えた場合、法に基づいて責任を追及する。」という見解を述べた。また、当該責任者は、ウェブサイトの管理者も管理責任を負わなければならず、人海戦術検索に関連する行為を発見した場合、速やかに制止しなければならず、この責任を果たさない場合には管理者の責任を追及すると警告した。

 法学の専門家は、プライバシーという一種の人格権が中国の司法で扱われるようになったのは極最近であるため、人海戦術検索が乱用される裏には、市民に対するプライバシーの保護が充分でないという現状があると分析した。この点について専門家は、更にネット管理の手段を完璧にしなければならないという点のほか、関連する法律を整備し、個人情報保護を強化しなければならないと提言している。

1.人海戦術検索の始まり

 「人海戦術検索」とは、人手と検索エンジンによる情報提供のシステムを指し、他人の力を借りて自分の探し出せないものを検索することである。実際には、1名または複数から質問が提示され、これに対して多くのネットユーザーが回答し、ソーシャルネットワークシステムを通じて結集され、対象事件または人物の真相もしくはプライバシーが突き止められ、なお且つこれらの詳細が暴露されることになる。

 中国における「人海戦術検索」の始まりとして公認されているのは2006年の「猫虐待女」事件とされている。

 2006年2月28日、ユーザー名「ガラスの破片」は、ネット上に猫を虐待したビデオからの切り抜き写真をアップロードした。まもなく、ユーザー名「12ookie_hz」は、「猫踏み」事件のURLアドレスを「猫撲」ネットにアップロードした。ユーザー名「黑暗執政官」は、「天涯SNS」に猫を踏む女性の写真を貼り、これを“宇宙指名手配”写真とし、世界中のネットユーザーからの通報を促した。

 2006年3月2日10時20分、ユーザー名「私は砂漠の天使じゃない」は、「猫撲」に「この女は黒龍江のある町に住んでいる…」という書き込みをした。この情報が大きなターニングポイントとなり、2日後の12時、猫虐待事件の容疑者3名がほぼ確定した。「ガラスの破片」がネット上に猫虐待ビデオからの切り抜き写真をアップロードしてから僅か6日後の事だった。その後の2年間、「銅須門」、「銭軍打人」、「華南虎」等の多くのネット事件において、人海戦術検索の方法は、驚くべき効果を発揮していた。

 これらの事件において、人海戦術検索は、事実・真相を整理し、ハッキリさせるために大きな役割を果たしてきたが、時として情報の過度な暴露が疑問視されることもあった。人々の人海戦術検索がネット上の暴力へ転落したことを喚起したのは、2008年に発生した「デスブログ」事件である。当該事件は「人海戦術検索最初の事件」とも称されている。

 2008年1月9日、天涯フォーラムのユーザーがユーザ名「姜岩」のMSNスペースを見た後、天涯八卦欄に義憤の書き込みを行った。当該書き込みの全文は、姜岩が自殺する前のブログに転載された。

 翌日晚、「姜岩の友達の友達」を自称するユーザが「哀しみは絶望より深い。24階から投身自殺した美女、最後のBLOG日記」というタイトルの書き込みを行った。そして、その中で「夫の愛人の話題が何度も視野に入ってきた。しかし私達には批難すること以外、どうすることもできなかった。」と書き込んだ。

 そこで理性を失った人海戦術検索が展開されることになった。その後、ユーザーが自殺した女性の夫の王菲と愛人の詳細な情報を公開し、ネット上で彼らをその所属する社会から排除するよう呼びかけた。激高したユーザーは王菲の両親の家までつきとめ、そのドアにペンキで「良妻を死に陥れた」という文字を書きなぐった。

 その後、王菲はプライバシー権と名誉権の侵害を理由に、ウェブサイト3社を告訴した。当該告訴は最終的に裁判所から支持され、裁判所は、ウェブサイトの管理者が管理責任を果たさず、王菲の個人情報を漏洩した行為は王菲の名誉権を侵害し、王菲の社会的な評価を明らかに低下させたと判断した。

 その後、当該事件の二審を審理する北京市第二中級人民法院の裁判官である劉義軍と劉海東は、「張氏(ウェブサイトの代表)には、言論の自由を謳歌する権利がある。しかし、その言論の自由の境界線は他者の適法な権利である。意見を発表する時には同時に相応の責任を負担しなければならない。「(ネット上での)道徳裁判」は、法律の尊厳と個人の適法な権利・利益の維持・保護を犯してはならない。」という文章を書いた。

2.複数の権利侵害を構成する可能性がある

 「人海戦術検索」とはあくまで一種の方法に過ぎず、技術そのものは違法行為または権利侵害行為ではないということである。中国民法学研究会副会長兼中国人民大学教授の楊立新は、「技術そのものはツールに過ぎない。そのカギは我々がどのように運用するかであり、善か悪かは永遠に理性を人に備わるものであり、ツールではない。」と述べた。また、同氏は、「人海戦術検索」の使用が不適切な場合、検索を受ける側の名誉権、プライバシー権、氏名権、肖像権等の関連する権利および利益を侵害する可能性がある。一定の条件に合致した場合には、関連する刑事責任も負わなければならなくなり、侮辱、誹謗等の罪名で起訴される可能性もある。権利侵害の主体は、直接の責任者、検索の発起人、ネットメディアの3者となる。」と述べている。

 楊教授の分析によれば、直接の責任者とは、「人海戦術検索」において他者に対し侮辱または誹謗を行い、他者のプライバシーを漏洩した者を指し、その権利侵害責任は疑いがない。検索発起人は、それぞれのケースを区别して考える必要がある。検索が他者の人格権を侵害することを明らかに知っていたか予見できた場合、権利侵害幇助者と認定し、連帯責任を負わせなければならない。「検索行為の結果が他者の人格権を侵害することを予見できなかった発起人、例えば一般の公共事件において捜索を発起したものの、捜索の過程でネチズンが他者の人格権を侵害する行為が発生した場合、直接の責任者が権利侵害責任を負い、発起人は責任を負いません。」と話す。

 ウェブサイトの責任については、2010年7月より施行された権利侵害責任法で充分明確に規定されている。楊教授は、権利侵害責任法の精神に則り、権利侵害を受けた者は、ウェブサイトからの削除、シールド、切断等の措置を要求することができ、ウェブサイトがこれらを行わない場合、連帯責任を求めることができ、ウェブサイトが事前に権利侵害を招くと知りながら必要な措置を講じなかった場合も、連帯責任を負うと述べた。

 琪琪の自殺事件においては、検索発起人の蔡氏が現在唯一責任を追及される可能性のある者であり、公安機関は侮辱罪の疑いで刑事拘留する予定である。

 楊教授は、当該事件は特殊であり、蔡氏は捜索発起人であると同時に所謂「窃盗」事件の当事者でもあり、これは一般の公共事件における「人海戦術検索」発起人とは異なるという。「彼女には個人的な目的があります。証拠なく琪琪を譴責したのであれば誣告罪を構成し、刑事責任を負う必要があり、少なくとも民事責任が生じます。」

 上海政法学院教授兼上海市法学会副事務総長の湯啸天氏は、「侮辱罪とは、暴力またはその他の方法を使用し、公然と他者の名誉を傷つけ、その情状が悪質な行為を指す。蔡氏の行為は公然と他者の人格を侮辱する行為であり、なお且つ直接的で故意と言える。」と分析する。さらに、「仮に洋服の窃盗が事実としても、琪琪は窃盗行為に関する制裁のみを受けるべきであり、人格上、名誉上の侮辱を受けるべきではない。」と湯教授は述べる。

(法制ネットより)

作成日:2014年02月17日