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社会保険の制度統一と不正防止に関する専門家の分析  -社会保険基金の不正行為に関する刑法修正を提案-

 ここ数年、定年退職年齢の引き上げや、養老金(日本の年金に相当)の財源に大きな欠損があることが大きな話題となっている。中国の第6回国勢調査及びサンプリング調査のデータによれば、中国は世界唯一の高齢者人口が1億人を超える国であり、その人口率は毎年3.2%のスピードで増えつつある。このため、数十年後の老人介護問題は、より厳しいものになることが予想される。中国政法大学の胡継曄教授は、社会の矛盾を解決するという点から見て、養老金への不安を解消することは人々の老後生活に対する懸念を根本から払拭することにつながると考えている。同教授は、国務院が速やかに社会保険法に関連した付帯条例を公布すると同時に刑法を修正し、社会保険基金横領罪と社会保険基金詐欺罪を追加するなど、社会保険法に不正防止の強化対策を講じるすべきだと提案する。

社会保険料は、全国統一基準で徴収すべきである

 中国の社会保険法は2011年より施行されているが、まだ制度的には不十分な部分が多い。同教授は、社会保険料の徴収は社会保険基金の基盤であるため、この基盤が崩れてしまうと、基金の管理、社会保険料の支給にも大きな支障を来すだろうと指摘する。現在の最も大きな問題は、社会保険取扱機関と財政税務機関の間で社会保険料の徴収方法について長年論争が存在するという点である。社会保険法は、同法第59条において「社会保険料は統一基準で徴収を実行する。その実施段階および具体的な方法については国務院が規定する。」としているが、徴収を実行する際の権限問題については明確にされていない。

 中国は、社会保険料の徴収において「一国家二制度」を行っている。この制度は長年批判を浴びてきたものの、財政税務機関と社会保険取扱機関の間で責任のなすり合いや水かけ論が続けられているため、社会保険基金の納付効率にも著しい悪影響を及ぼしており、社会保険基金の監督管理における難病となっている。社会保険基金の監督機関は、如何に政府機関の序列の中で高い位置にある税務機関の徴税業務を監督してゆけばよいのだろうか。同教授は、長期的に見れば、この問題を今解決しておかなければ、今後ますます解決することが難しくなるだろうと見て、国は道路維持費を燃料税に変更する改革を実行した時のように、当該問題を根本的に解決すべきであると考える。

 また、当該問題の解決対策について同教授は以下のように指摘する。「一つの解決方法としては、1999年に公布された『社会保険料徴収暫定施行弁法』を改訂し、社会保険法の統一的な徴収の規定について新たな『社会保険料徴税条例』を公布することができるだろう。中国全土における社会保険の取り扱いと取扱機関を統一することで、基金の基盤となる徴税段階の監督管理体制もしっかりと確立することができ、徴税段階での不正による流出現象も大幅に減少できるだろう。」

養老金の投資運用を立法により制度化する

 社会保険法第69条には、「社会保険基金は、安全を保証するという前提の下で、国務院の規定に基づいて投資運用を行い価値の保護と増加を実現する。」と規定されている。これについて同教授は「当該条項の規定により投資運用が必要とされているのは、主に養老保険の個人口座基金であるため、養老保険基金の統一部分及び医療・失業・労災・出産の4項目の基金と区別して管理し、種類ごとに運用・監督すべきである。養老保険個人口座基金は労働者の一生にかかわるものであるから、その価値の保護と増加の重要性は言うまでもないことである。」と指摘する。

 同法第14条の「養老保険の個人口座の利率は銀行の定期預金率を下回ってはならない。」という規定は、最低限度を示すものに過ぎない。もし、養老保険の個人口座利率が銀行預金利率と同じであれば、労働者は社会保険基金に預けるより自分で銀行に預けた方が良いだろう。世界的に見れば、株式市場と債権市場が主な実体経済となっていることから、養老金を戦略投資資金として資本市場において長期投資することによってのみ、その収益率が最終的にインフレ率を上回り、銀行預金利率を上回ることが可能となる。これには社会保険の付帯法令である『養老保険個人口座基金投資管理弁法』を速やかに制定し、投資運用行為を制度化する必要があると見られている。

 同教授は、「社会保険法は原則的な規定にすぎず、実務的な取り扱いが難しかったため、国務院は速やかに関連弁法を公布し、養老金と資本市場の垣根を取り除く一方で、養老金の価値を保護しながらも資本市場での健全な発展を促すべきである。」と指摘する。さらに、『全国社会保険基金投資管理弁法』を参考としながら社会保険法の付帯法令として、取扱性の高い『養老保険個人口座基金投資管理弁法』を公布し、養老金の投資運用を制度化すると同時に、養老金の安全性、収益性、流動性を確保し、中国の養老金市場の多いなる発展に法的な基礎を打ち立てることを提案している。

社会保険法への違反に関する罪名を刑法に組み入れるべきである

 不正防止のため、情報公開は最良の策となる。同教授は、社会保険基金監督管理機関の立場としては、社会保険取扱機関だけでなく投資機関も情報を開示すべきであり、なお且つ社会保険基金の徴収、管理、投資運用、支払いは、いずれも社会の監督下に置くべきであるという。

 社会保険法は、社会保険取扱機関が定期的に社会保険への加入状況及び社会保険基金の收入、支出、残高、収益状況について公表しなければならないと規定している。同教授は、「定期的な公開」は原則的すぎるため、国務院が公布した『社会保险基金监督管理条例》を通じて、社会保険基金の公開範囲、内容及び方法を詳細に規定し、国家機密、個人のプライバシーおよび商業上の秘密に関わらない限り、全ての情報は社会に公表し、社会からの監督を受けるべきだと考える。

 同教授はまた、「この他、速やかに精算、会計、会計監査事務所及びリスク評価会社等の仲介機関を育成し、社会保険基金への監督を強化する必要がある。社会保険法第11章は、法的責任を規定している。そのうち、第94条において、規定に違反し、犯罪を構成する場合、法に基づいて刑事責任を追及すると規定されている。」と話す。さらに、「罰則の無い法律は紙切れに過ぎない。現在の中国の刑法には、社会保険犯罪に関して如何なる条項もない。したがって刑法の中に関連条項を追加することが、社会保険法が真に威力を発揮するための鍵となる。」と指摘する。

 同教授は、民法と契約法の中で契約詐欺者は法的責任を負わなければならないという規定及び刑法の契約詐欺罪、公私金品詐欺罪の規定に基づき、横領と詐欺行為に対しては法的責任を負わなければならないと考える。社会保険法については、刑法第198条に規定されている保険詐欺罪を参考に、刑法の中に「社会保険基金横領罪」と「社会保険基金詐欺罪」を追加することを提案。今は、社会保険基金の横領または詐欺事件が起きた場合に別の罪名で起訴するしかないというきまり悪さを解決し、社会保険の違法行為に関する罪名を刑法に追加するべき時にきているのではないか、と話す。また、社会保険基金の詐欺禁止に関する法制度を整備するため、『社会保険基金監督管理条例』の中で社会保険詐欺についての罰則を明確にする以外にも、人力資源社会保障部が『社会保険基金詐欺禁止管理弁法』を作成し、部レベルの規則制度として立法し、全国一斉に社会保険詐欺禁止業務を行うべきであると提案している。

(法制日報より)

作成日:2013年05月16日