最新法律動向

定年退職年齢を過ぎても退職しない従業員でも労災保険が受けられるよう規定

 現在、中国における労災保険の加入者数は、既に1.9億人に達しており、この9年で労働災害保険の適用を受けた人数は累計816.8万人に達しているという。しかし、新たに改訂された『労働災害保険条例』を施行する過程において、多くの地方では、一部の政策、基準、手順等が明確ではないために、紛争を惹起している。このため、人社部は、『『労働災害保険条例』執行に関する若干の問題についての意見(意見聴取稿)』を準備し、パブリックコメントを求めることにした。

在校生の実習期間の受傷は商業保険に
 
中国では、毎年多くの大学・短大及び商業高校の在校生が企業・事業者等で実習している。2009年、教育部等の部門は文書を発行し、商業高校においては実習生に商業保険をかけることをすすめ、実習生が実習期間中に受けた事故傷害後の権利及び利益を保障することを明確化した。

 関係部門による検討によれば、実習生と実習事業者の間には雇用関係が確立されておらず、労働法における意義上の労働者ではないため、実習生の権利及び利益保護については、商業保険をかける等の方法で解決を図るべきであるとされた。これに基づき、『意見聴取稿』の規定では、全日制普通大学・短大及び商業高校の在校生が企業・事業者等で実習する場合、実習生と実習事業者の関係は雇用関係に該当しないため、学生が実習期間中に事故傷害に遭遇した場合、商業保険等のルートを通じて保障を受けることができるとした。

 また、現在多くの労働者は法定定年退職年齢に到達した後も、元の勤務先に留まり勤務を継続することを選択しているため、すぐには基本養老金(日本の年金に相当)の受領や、定年退職手続きを行わないという。こうした者が業務による事故傷害に遭遇するか職業病に罹患した場合、その権利及び利益をどのように保障するかという問題があり、地域によって対応が異なっている。労災保険を通じて保障している地域もあれば、民事賠償を通じて解決を図っている地域もあるという。こうした人々の権利及び利益を保障し、各地の対応を更に制度化するため、「意見聴取稿」では、こうした人々の労働災害認定申請を受理すべきであることを明確化した。

 この他、「意見聴取稿」では、定年退職前に職業病に罹患する危険性のある作業に従事していた者について、退職手続きを行った後、職業病に罹患する危険性のある作業に従事しなくなった場合でも、定年退職者が職業病と診断、認定された日から1年以内は労働災害認定を申請できるとし、社会保険行政部門も、これを受理すべきであると提言している。さらに労働災害認定及び労働能力鑑定を経て、後遺障害補助金を一括で受領する条件を満たしていると認定された場合、金額の高い方をとるという原則に基づいて、本人の定年退職前12ヶ月の平均賃金又は職業病と診断される前12ヶ月の平均養老金を基数として補助金を計算し、支給するとしている。

労働災害保険の長期保険金は一括で受領することはできない
 
「意見聴取稿」では、労働者の権利及び利益を保障するため、労働災害保険の長期保険金は一括で受領することはできないことを明確化した。人社部の責任者によれば、2004年に元の労働社会保障部が印刷・発行した『出稼農民が労働災害保険に加入する問題についての通知』により、出稼農民は一括で長期保険金を受領できると規定し、労働災害を受けた出稼農民が帰郷した後、月極で保険金を受領することの不便さを解決した。当時の条件下において、これは出稼農民の権利及び利益を保障する上で、重要な役割を発揮したという。

 しかし現在、社会保障サービスのネットワーク化及び情報化レベルの向上に伴い、居住地外で保険金を受領する条件も徐々に整備されつつある。2011年に施行された『社会保険法』では、1級から4級の後遺障害を受けた従業員は、月極で後遺障害手当を受領すると規定されている。このため「意見聴取稿」では、労働災害保険基金から各種保険金を支払うとし、『条例』第66条第1項が規定する使用者が一括で支払う必要のある賠償金を除き、労働災害保険基金から支払われる長期保険金は一括で受領することはできないと規定した。今後、社会保険部門は関係部門と協力して、居住地外での支払い等の関連する政策措置を更に完備するとしている。

 「意見聴取稿」では、従業員が同一の使用者で何度も労働災害事故に遭遇した場合、法に基づいて一括で後遺障害就業補助金及び一括で労働災害医療補助金を計算して支給する際、金額の高い方を採用するという原則に従い、労働能力に基づいて、後遺障害最高レベルを鑑定するとも規定している。

業務のために外出して受傷したという場合には、業務と直接の関連性が考慮される
 
労働災害の認定は、労働災害を受けた従業員が保険金を受給する前提及び基礎であり、労働災害を受けた従業員の使用者が労災保険に加入しているか否かに関わらず、従業員が事故傷害を受けたか、職業病と診断された後は、いずれも労災認定を申請する権利を有している。ただし実務においては、従業員の外出業務が明確な使用者からの指示であることを証明できないか、事業者からの指示ではあるものの、受けた事故傷害と業務に関係がない等、条件の境界線がハッキリしないか、関連する証拠が不足しているか証拠が信用できないため採用できないという状況が生じている。

 これに対し、「意見聴取稿」は、「業務の為に外出していた期間」の認定について、従業員の外出が使用者の指示した業務による外出か否か、遭遇した事故傷害が従事している業務に直接的か、密接に関係しているか否かを考慮する必要があると規定している。

 従業員が自らの故意の犯罪行為により死亡した場合の事実認定については、関係機関が発行及び発効した法的文書か、確認的な意見文書を根拠にする必要があるという。「泥酔者又は麻薬吸引者」及び「自殺者」の事実認定については、関係機関の発行した確認的な法的文書又は裁判所により発効した判決文を根拠にするとした。

 「労働災害保険条例」第15条第(1)号には、「労働時間及び業務上の職位において、突発的疾病により死亡するか、48時間以内に救急医療を受けたものの効果なく死亡した者」は、労働災害と見なすと規定されている。「意見聴取稿」では、この種のケースで労働災害認定を申請する場合、従業員の所属する使用者は、原則として従業員死亡の日から5業務日以内に社会保険行政機関へ報告すると規定している。

 現在、一部の地区の工事プロジェクトでは、下請け・孫請けという状況が一般的になっており、雇用資格のない組織や自然人へ下請けに出している場合もあり、労働災害が発生した際に、責任の所在を確認できないケースさえあるという。このため、「意見聴取稿」では、雇用資格を備えた事業者が法律・法規の規定に違反し、請負業務を雇用資格のない組織や自然人へ下請けに出し、その雇用した従業員が請負業務に従事した際に業務により死傷した場合、請負人が責任を負うという原則に基づき、雇用資格を備えた事業者が責任を負うと規定している。

(人民日報より)

作成日:2013年02月27日