最新法律動向

自動車「3補償」政策執行上の難題

 9年の歳月が経過したものの、自動車「3補償」規定の歩みは緩慢である。

 第三者検査機関がないという問題や規則違反の罰金が最高で3万元という問題等、自動車「3補償」規定が消費者の権利保護の為の切り札になるか否かについて、まだ回答が出るまで時間がかかりそうである。 

10月から自家用車の返品には根拠が必要に
 
最近、多くの人々から関心を集めていた自動車「3補償」規定が漸く公布された。国家品質検査総局『自家用車製品修理、交換、返品責任規定』の公布に伴い、今年10月1日より、中国国内の自家用車の利用者は、全く新しい「3補償」サービスを受けることができるようになった。
 この規定に基づけば、自家用車製品の修理補償期限は3年間又は走行距離60,000キロのうち、先に到来した側を基準にするものとされ、自家用車製品「3補償」の有効期限は、2年間又は走行距離50,000キロのうち、先に到来した側を基準にするものとされ、自家用車製品の修理補償期間と「3補償」有効期間は、ディーラーが自動車販売領収書を発行した日から起算されるという。
最も関心の高い返品、交換の問題について、国家品質検査総局は新規定における4種類の具体的なケースを披露した。
①ディーラーが自動車販売領収書を発行した日から60日以内又は走行距離3,000キロ以内で、ステアリングシステムの異常、ブレーキシステムの異常、ボディのひび、オイル漏れが発見された場合、車両交換か返品を選択できる。
②著しい安全性能上の故障が累計2回発生し、修理しても故障の発生の可能性を排除できないか、新たな著しい安全性能上の故障が現れた場合、車両交換か返品を選択できる。
③エンジン又は変速機を累計2回交換したか、それらと同一の主要部品を累計2回交換したものの依然として正常に使用できない場合、車両交換か返品を選択できる。
④ステアリングシステム、ブレーキシステム、サスペンションシステム、前後シャフト、ボディの同一の主要部品を累計2回交換したものの依然として正常に使用できない場合、消費者は車両交換か返品を選択できる。

 これ以外に、新規定は、修理時間の原因により惹起された交換のケース及び交換できずに返品となるケースも規定している。修理補償期間について、自家用車製品に品質問題が発生した場合、消費者は「3補償」証憑を持参して修理者に労働時間及び材料費を含む無料修理を求めることができる。この他、新たな規定にも若干の「3補償」に該当しないケースが存在する。例えば、自家用車製品をレンタルするかその他の営業目的に使用する場合。使用説明書に改造、チューニング、分解不可と明示されているにもかかわらず、消費者が自ら改造、チューニング、分解した結果、損壊した場合。不可抗力により損壊した等のケースでは、オーナーは、何れも「3補償」サービスを受けることができない。

ディーラーが再度「口実」にされる
 「3補償」規定が開始されると、最も直接的な影響を受けるのは間違いなくディーラーである。「3補償」規定の内容に基づけば、「3補償」責任は、けしてメーカーが負うのではなく、先ずディーラーが負担することになっている。それから、ディーラーがメーカー又はその他の経営者に追徴する。ご存じの通り、ディーラーは、メーカーとの力関係において、明らかに弱者の地位にある。しかし「3補償」規定の責任主体として、消費者の故障車に対して責任を負わなければならない。もし、消費者とメーカーの間で問題が発生した場合、直接的に利益を失う可能性が高い。
 中国自動車流通協会の羅磊副秘書長は、新政策が流通分野のディーラーにとって大きなプレッシャーとなっているのに対し、品質保証面で最も重要な存在である筈のメーカーは相反して大きな影響を受けていないと考えている。その他の問題としては、規定に違反したディーラー又はその関連メーカーに対する処分が軽すぎることである。最高3万元の罰金は、億単位の利益を生み出すメーカーやディーラーにとっては微々たるものであり、経済的な制裁として威力を発揮するとは思えない。故障車が高級車である場合、返品車のコストは十数万元から数十万元にもなり、それに比べて3万元の罰金は、明らかに取るに足りないものである。もしメーカーが故障車に対して責任を負うなら、問題は容易に発生しないかも知れない。だが一旦これらの協力関係が上手く作用しなくなった場合、孤軍奮闘の「責任主体」であるディーラーは、罰金を払うものの賠償しないという道を選ぶ可能性もあるだろう。こうなったら最終的な被害者は、やはり消費者である。
 ある4Sディーラー店の店員は、こう述べた。「国が自動車「3補償」政策を発表し、会社がこの規定を厳格に実行し、製品が補償期間中に大きな問題が起きた場合、消費者が車両交換か返品を要求するのは当然だと思う。問題は、ここに合理的な取り扱い基準があるかということだ。もし合理的に消費者、メーカー、修理業者、ディーラー各方の利益バランスを取れなければ、不健全な車両交換・返品ブームが起きる可能性がある。」明らかに、「3補償」の発表は、彼らを矢面に立たせることになり、緊張させずにはいられないようである。
 
第三者検査機関の位置付けがない
 2012年下半期、数百のベンツオーナーがCクラスの車内の異臭が基準を超えているとして自費で第三者機関による検査測定を行った。しかしベンツ社側の回答は第三者機関による検査測定結果を認めないというものだった。これにより、権威ある第三者検査測定機関がないことが消費者の権力保護の大敵となったが、「3補償」政策発表後も、この問題は解決していない。品質検査総局品質司の関係者がメディアの取材を受けた際に、このように説明した。「3補償」責任で紛争が発生し、消費者と経営者の間で協議が成立しなかったとしても、直接『品質鑑定』プロセスに入るとは限らない。これは、複雑な技術上の問題と比べて、規定の中には技術コンサルタントの段階が提供されている。つまり省級以上の品質管理部門は、自動車製品3補償責任技術コンサルティング人材バンクを設置することができ、その専門家バンクには経験豊富で、故障を直接処理することができる技術者が含まれるとされている。紛争処理に技術的なコンサルティングを提供することができる。技術コンサルティング料は、消費者と経営者の双方が協議して支払う。」
 把握するところによれば、現在品質検査部門は「3補償」情報管理システム及び技術コンサルティングの専門家バンクの立ち上げに着手しているという。自動車3補償責任について紛争が発生した場合、消費者は技術専門家を招聘して紛争の分析に当たらせることができる。こうすればコストの高い「品質鑑定」だけが選択肢とはならない。これが実際の問題を解決できるか否かは、実例による回答が待たれるところである。
 キャリアのある自動車評論家張志勇によれば、「3補償」は若干の問題を解決することはできるだろうけれども、最も根本的なことは、やはり需要と供給の関係の調整であり、売手市場が次第に買手市場に移行するに従い、これらの問題は自然に解決されていくだろうという。

関連リンク
自動車「3補償」発表の経緯
● 2002年12月 、中国消費者協会は正式に各地の消費者協会へ通知を出し、自動車「3補償」規定の草案に修正意見を提出するよう要求した。
● 2004年12月 国家品質検査総局は、『自家用車製品修理交換返品責任規定(草案)』を公布し、社会から意見を求めた。
●2011年9月 国家品質検査総局は、法に基づいて『自家用車製品修理、交換、返品責任規定(意見聴取稿)』を作成し、公開で社会から意見を求めた。
● 2011年10月 国家品質検査総局は公聴会を招集し、『自家用車製品修理、交換、返品責任規定(意見聴取稿)』に対する公聴会を行った。
● 2013年1月 国家品質検査総局は、『自家用車製品修理、交換、返品責任規定』を公布し、2013年10月1日より施行すると規定した。

(新金融観察報より)

作成日:2013年01月29日