法律相談Q&A

運転手の労災認定について

Q:当社は、オフィスビルの10階にございます。2003610日に、当社の運転手へ顧客を迎えるため午前11時に社用車を運転して飛行場に向かうよう指示しました。指示を受けた後、運転手は階下の駐車場へ向かいましたが、オフィスビル1階出入口の階段にさしかかったところ、滑りやすかったことと、慌てていたために階段の4段目から滑り落ちて受傷してしまいました。事故発生後、当社は直ちに運転手を病院へ連れてゆき治療を受けさせました。この事件について、当社は運転手が受傷したのは業務上の理由ではなく、本人の不注意によるものであるため、その受傷という結果については、本人が担った任務とは因果関係がなく、勤務場所で受傷したのでもないため、労働災害に該当しないと考えています。この理解で正しいでしょうか。

A:『労働災害保険条例』第14条第(1)号によれば、「従業員が勤務時間及び勤務場所において業務上の理由で事故により受傷した場合、労働災害と認定しなければならない。」と規定されています。従いまして、当該案件が労働災害に該当するか否かのポイントは、運転手が「業務上の理由」で「勤務場所」にて受傷したか否かによると思われます。

(1)運転手は「業務上の理由」で受傷したのか
 同条例第14条によれば「業務上の理由」とは、従業員の受傷と本来業務に従事していたこととの間に因果関係が存在しているものを指すと規定されています。即ち、従業員が本来業務により受傷した場合です。運転手は、社用車を運転して顧客を迎えるという業務を遂行するために、10階の事務所から1階迄降りて行き、なお且つ1階出入口にて受傷したのですから、「業務上の理由」により任務を遂行するため起きた事件に該当すると考えられます。

(2)運転手が受傷したのは「勤務場所」の範囲内なのか
 同条例第14条第(1)号によれば、「勤務場所」とは、従業員が業務活動を行う場所を指し、複数の勤務場所が存在する状況においては、従業員が行き来する複数の勤務場所間において必ず通過する場所も含まれると規定されています。本件において、オフィスビル10階に位置する会社の事務所は運転手の勤務場所ですが、社用車を運転するという任務を遂行する場所は、運転手のもう一つの勤務場所と言えます。社用車をオフィスビルの1階出入口の外に駐車させているため、運転手は任務を遂行するため、オフィスビル10階から1階出入口の外の駐車場へ行く必要があります。故に10階から駐車場間が運転手が2つの勤務地を行き来する際に必ず通過する場所であり、王運転手の勤務場所と認定する必要があります。

(3)本人の不注意(過失)は労災認定に影響するか
 同条例第16条には、労働災害として認定しないケースが規定されています。即ち以下の3ケースです。

①犯罪又は治安管理違反により受傷したか、死亡したとき。
②酒酔いにより受傷したか、死亡したとき。
③自ら受傷したか、自殺したとき。

 つまり従業員の業務遂行中の過失は、労働災害として認定しないケースには該当いたしません。以上の分析をまとめると、運転手の受傷は、『労働災害保険条例』第14条第(1)号の労働災害認定要件に合致するため、労働災害に該当すると見なす必要があります。

作成日:2012年06月20日