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従業員の人事異動―本人の同意は必須か?

   実務では、企業側の経営管理の状況により、従業員の人事異動や賃金の調整が実施されることがよくあります。 従業員側の多くは、人事異動は労働契約の変更に属し、協議一致してからでなければ違法な異動になると考えています。果たして、企業側が従業員を人事異動する際、必ず従業員本人の同意を得なければならないのでしょうか。最近、クライアント様より同様のお問い合わせが寄せられたこともあり、今回は各日系企業、人事総務の皆様にもご参考いただけるポイントについて簡潔にご紹介いたします。

1.人事異動は原則として従業員と協議により一致
   『労働契約法』第17条第1項第4号では、労働契約には従業員の業務内容及び勤務場所が含まれると規定していることから、業務内容は労働契約を構成する一部分であると言えます。 また、同法第35条の規定は、雇用者は労働者と協議により一致し、労働契約の約定内容を変更することができるとしています。
   そのため、企業が従業員を異動させる際は、原則として従業員と協議一致し同意を得ることが必要で、これは実務において従業員側の多くが主張する抗弁事由の一つでもあります。

2.特定の状況下では従業員の同意なしで人事異動の実施が可能
   従業員の人事異動は、原則として従業員と協議一致しなければなりませんが、これは企業における人事異動すべてにおいて従業員の同意を得る必要があることを意味する訳ではありません。企業にとって、生産経営や管理の必要に応じて従業員を異動させることは、雇用者が持つ自主管理権を行使する必要が生じた場合、それを体現する方法の一つです。
   法で定める特定の状況に面した場合、企業は一方的に従業員を異動させることができます。例えば、『労働契約法』第40条に規定されている3つの状況に当てはまる場合、企業が一方的に従業員を異動させても差し支えありません。
   その他、労働契約上で人事異動について約定されている状況に当てはまる場合も、企業は従業員の同意を得ずに従業員を異動することができます。ただし、合法的、合理的な人事異動でなければならず、合法性、合理性を証明する関連証拠が必要であるという点に注意が必要であり、これが認められないのであれば、違法な人事異動と見なされる可能性があります。

◆日系企業の皆様へのアドバイス
   人事異動や賃金の調整は、実際に労働争議を引き起こす一因となっています。法律は、従業員に対する企業の自主管理権を一定程度保護・承認しているものの、自主管理権には限度があり、もちろんこれを濫用することはできません。
   さらに、地域や各裁判所によって同じ問題に対する認識や見解が異なっている場合もあるため、現地企業が従業員の人事異動を実施する場合は、現地の司法傾向を調査し、具体的な事案について適切な分析を進めるためにも、現地に通じた弁護士との協力により対応策や計画を練り、企業の評判の低下、ひいては労働争議に至りかねない違法な人事異動を避けるようにしましょう。

作成日:2024年01月10日