コロナ及びその他のホットな話題

中国独占禁止法関連法規の最新改正

   2022年6月24日に新たに改正された「独占禁止法」の関連規定として、2022年6月27日、国家市場監督管理総局(以下「SAMR」と略称する)は『事業者集中審査規定』、『独占協議の禁止に関する規定』、『市場支配地位の濫用行為の禁止に関する規定』、『行政権力の濫用による競争の排除、制限行為の制止に関する規定』の4件の部門規則(国務院所属の各部、委員会が法律と行政法規に基づき制定した規範的文書であり、法的効力は法律や行政法規よりも低い)の意見募集稿を公布しました。
   9か月を経て、2023年3月24日、SAMRは上述の4件の独占禁止法関連部門規則を正式に公布し、2023年4月15日から施行します。今回の4件の部門規則は『独占禁止法』を詳細化し独占禁止規則を整備するものであり、中国政府当局の法執行及び在中日系企業の生産経営に重大な影響を与えるものです。今回は『市場支配地位の濫用行為の禁止に関する規定』(以下「規定」と略称する)に関する要点について解説します。

◇日系企業の販売活動が政府の注目を集めている事例
   現地日系企業A社は本社B社からある製品を購入し、代理店C社(内資系企業)と販売代理店契約を締結し、C社が中国国内で当該製品を販売しています。また、販売業のD社も本社B社から同様の製品を購入して中国国内で販売しています。本社B社の製品は品質が良く中国で人気があります。そのため、D社とC社が同じ顧客に対してその製品を売り込み、トラブルが発生することがよくあります。
   その後、D社は本社B社にこの件を訴え、苦情を受けた本社B社はD社との取引を安定させるため、「D社の既存顧客に対し同じ製品を売り込まないようC社に要求する」ことをA社に指示しました。
   続いて、A社が本社B社の指示に従いC社に書簡を送ると、間もなく所在地の市場監督管理局から連絡を受け、A社の要求は限定取引行為を構成している疑いがあり、独占禁止法違反で訴えられるとしてA社は説明を求められました。弁護士により、A社のこの要求には違法となるリスクがあると確認されたため、A社が「当該書簡は提案文書であり、強制的な拘束力はない」という論点を用いて説明することを提案しました。最終的に市場監督管理局はA社の主張を受け入れ、A社に対する処罰はなされませんでした。

◇今回の規制改正のポイント
1.今回の規定改正の主要な目的は、『独占禁止法』における市場支配地位の濫用による法執行の規則を詳細化及び整備して法執行過程における新たな問題を解決することで、とりわけプラットフォーム経済分野の独占禁止制度規則を詳細化、整備することであり、これは中国政府が直近2年間にアリババ、中国知網などのIT及び学術文献ネットワークデータベース等の企業に対して頻繁に展開している法執行状況と一致しています。
2.今回はプラットフォーム経済分野の独占禁止制度規則を重点的に整備しました。
①「データとアルゴリズム、技術及びプラットフォーム規則」などの認定プラットフォーム経済分野における市場支配地位の濫用行為に関する考慮要素を規定しました。
②プラットフォーム経済の特徴に対し、取引金額、取引数量及び流量制御能力の増加を、プラットフォーム経済分野における経営者の市場支配地位の濫用を認定する参考要素としました。
③取引を拒否する正当な理由が新たに追加されました。すなわち、取引の相手方が公平、合理的で差別性のないプラットフォーム規則を遵守しないと明確に表示、あるいは実際に遵守していないこと。
④不公平な高値または安値、抱き合わせ販売またはその他の不合理な取引条件行為の付加、差別待遇行為を認定する参考要素を整備しました。
3.需要代替、供給代替の観点から関連商品市場と関連地域市場を定義する考慮要素を明確にしました。
4.今回、市場支配的地位の濫用行為の認定規則について以下の調整を行いました。
①「市場集中度」を追加し、関連市場の競争状況を分析する考慮要素としました。
②取引拒否の表現形式を細分化しました。例えば、取引相手が承諾しにくい価格を設定すること、取引相手に向け商品を買い戻すこと、取引相手と他の取引を行うことなどの制限的な条件を設けることなど。
③取引制限の表現形式を補足し、懲罰的またはインセンティブ的措置などの形を変えた方法で取引制限をすることも取引制限行為にあたるとしました。実務では、企業が実施する「二者択一」行為の多くは、同時に複数の賞罰措置を取ることにより「二者択一」行為の実施を保障しています。
5.独占禁止法執行機関の調査手順を整備し、詳細化し、調査対象となる事業者と通報者の権利を保障することを規定しています。例えば、独占禁止法執行機関が行政処罰の決定を下す前に、書面で当事者に通知し、当事者の意見を十分に聴取すべきであることを明確にします。
6.新設の面談制度と通報フィードバックの仕組み。独占禁止法執行機関は、違法の疑いがある組織の法定代表者または責任者に対して面談を行い、措置を講じて改善するように要求することができます。この措置は行政処罰ではありませんが、適時に対応しなければ行政処罰プログラムの起動に到る可能性があります。

◇日系企業へのアドバイス
   本規定のほか、「独占禁止法」の他の3件の関連規則にもいくつかの改正と補充があり、日系企業は独占禁止協定、事業者集中などの独占禁止規則の変化を同時に理解し、経営行為に対してコンプライアンスのための調整を行うことができるでしょう。今後しばらくの間、プラットフォーム経済、民生分野等は依然として独占禁止法執行の重点分野であると予想され、日系企業も自社の属する分野の独占禁止法執行活動に対して注視を強化し、調査に遭遇した際には適切な措置と抗弁理由を適時に講じ対応しなければならないと言えます。

作成日:2023年04月07日