最新法律動向

他人を新型コロナウイルスに感染させた場合、賠償は発生するか

   最近、中国北方各地で新型コロナウイルスの感染流行が発生しており、各地の防疫政策が強化され、人々の感染対策意識も高まっています。しかし、新型コロナウイルスはきわめて抑制の難しいウイルスであり、従業員が通勤・出張中に感染し、さらに他人にうつしてしまうことを懸念する日系企業の管理職もいらっしゃるかと思います。そのような場合にどのような対応を取ればよいかについて、以下の分析をご参考ください。

◆ 全般的な法制度の確認
   『民法典』第1165条の規定により、行為者が過失により他人の民事権益に損害をもたらした場合は、権利侵害責任を負うべきであるとされています。法律規定により、行為者に過失があると推定され、自らに過失がないことを証明できない場合には、権利侵害を負わなければなりません。
   もし、従業員が不注意により新型コロナウイルスに感染し、なおかつ自分で感染したことに気づかず、正常な日常活動の中で他人に接触してその人を感染させた場合、故意や重大な過失が存在するわけではないため過失は存在せず、他人への賠償は必要となりません。
   また浙江省高級人民法院民事審判第一廷も、『新型コロナウイルス感染症関連の民事法律紛争の規範化に関する実施意見(試行)』において類似の見解を示しています。当該意見では、新型コロナウイルスをうつされた者が感染させた者に対して損害賠償を求め、訴訟を提起した場合、原則として支持しないことを規定しています。ただし、感染させた者が、自らが感染していることや、感染疑いがあること、きわめて感染しやすい状況にあることを明らかに知っている状況において、なお政府機関の要求通りに相応の行為を取っていなかったことを、証拠を示して証明できる場合を除きます。

◆ さらなる法的リスク
   従業員が、自ら新型コロナウイルスに感染したことを明らかに知りながら、防疫措置に違反し無断で出勤して(このような人は実際にはごく少数ですが)他人を感染させた場合、賠償を求められるリスクだけでなく、当該従業員が刑事責任を追及されるというリスクも存在します。最高人民法院、最高人民検察院、公安部、司法部が公布した『新型コロナウイルス感染症対策を妨害する違法犯罪への法による懲罰に関する意見』によると、「危険な方法により公共の安全を脅かした罪」を構成する可能性もあるとされています。

◆ 留意点
   従業員に上記のような状況が発生して賠償請求を受けることを防止するため、日系企業各社では現地の防疫政策の要求の厳守にご注意いただくようお勧めいたします。普段から感染対策の措置を徹底し、マスクを着用し、手洗い、換気をこまめに行い、感染を防止します。自らが感染した場合や、感染疑いがある場合、またきわめて感染しやすい状況にあったことを明らかに知っている場合には、要求に従い速やかにPCR検査を受け、きちんと治療し、隔離を行うようにしましょう。
   春節を控え、多くの地方で防疫に関する最新要求が公布されています。無事に休暇を迎えていただくために、従業員の出張又は帰省にあたっては目的地の最新政策要求を事前に確認し、ウイルス感染により行程に支障の出ることのないようご準備ください。
   少し早めながら、皆様にはよい春節と新たな「丑年」をお迎えいただけるようお祈りいたします。

作成日:2021年02月03日