最新法律動向

M&Aにおける労務対応の留意点

   新型コロナウイルスの感染流行と中国の環境規制の強化、人件費等のコスト高騰等による影響から、中国の多くの日系企業ではM&Aや再編の問題に直面しています。
   管理者の中には、中国の『労働契約法』第33条の規定により、使用者が出資者等の事項変更を行っても労働契約の履行には影響しない、持分譲渡によって現地法人と従業員の労働関係が変わることはないと法律で定められている以上、特に労務対応は発生しないだろうと考えている方がいます。
   しかし、実務においては一部の持分譲渡案件において、従業員が企業の日常経営管理における法律規定への違反(残業手当の支払いの違法、社会保険料納付基数、住宅積立金基数が法定基準を下回る等)を指摘したり、持分譲渡について従業員との協議を経ていない等を理由に企業に経済補償金の支払いを要求したり、ストライキ等の集団性事件を起こしたり、最終的には持分の譲受側が対象企業の従業員が安定せず経営を継続できないことを理由に持分譲渡を中止したというケースもあります。このため、持分譲渡においても、労務問題を軽視することはできません。
   持分譲渡に伴う労務問題の対応時には、以下の点に特に注意を払う必要があります。

1.政府機関に意見を仰ぎ、政府機関と交渉したうえで、持分譲渡における労務対応案を合理的に設計する。
2.法務DDを実施し企業の状況を全面的に把握する。
3.民主的プロセスを履行したうえで従業員への説明を行う。
4.持分譲渡への社内の協力者の人選を合理的に設定する。

   労務問題への対応の複雑性に鑑み、適法かつ適切に労務問題を処理するためには、立場的に中立の第三者(法律事務所)に対応を依頼することで、持分譲渡の実施過程、事後のいずれの段階においても法的リスクの発生を極力抑えることが可能となります。

作成日:2020年09月30日