最新法律動向

法定代表者のリスク管理対策

   日本では、会社の法定代表者は2名以上の人数とすることができるとされていますが、中国では法定代表者は1名しか担任できないとされています。日本の法定代表者制度には、中国のものと共通する面と、異なる面があります。法定代表者について、中国の実務における留意点をご紹介いたしますので、ご参考いただければと存じます。

◇法定代表者の選任
   法律上、現地法人の法定代表者は現地法人の董事長、執行董事あるいは経理(マネージャー)にしか担任できないものとされていることに留意する必要があります。実践においては、権限を確保するために、日本本社の社長が現地法人の法定代表人を担任するということも多く行われています。また、本社から日本人の管理職を任命派遣して担任させるという日本企業も少なくありません。現地法人の法定代表者をどう選任するかは、本社で慎重に検討する必要があります。

◇法定代表者の職権行使とコーポレートガバナンス
   法定代表者には非常に大きな代表権限があり、法定代表者が適切に会社をコントロールし、管理することができれば、現地法人の経営を大いに助けるものとなります。
   しかし、法定代表者が職権を行使する中で、過失があると会社からの民事責任求償を受ける場合があります(『民法典』第62条)。特に会社で違法行為が発生した場合、法定代表者が個人として巻き添えとなり、行政責任を追及され、深刻な場合は刑事責任を問われることもあります。
   このため、法定代表者個人が責任追及を受ける事態を極力避けるべく、職権行使に懸念がないようにして、現地法人の会社管理を強化し、中国現地の法律や実状に合ったコンプライアンス体系を確立し、重要な法律面のリスクポイントを確認して重点的に防止策を講じることが必要となります。

◇ローカライゼーションの過程における法定代表者の権限制限
   現地化を進める上で、中国人に法定代表者を担任させることを試みる日本企業もあります。そうした場合、法定代表者による職権濫用のリスクが本社にとっての懸念事項となる可能性があります。このような場合、会社定款や会社の意思決定機関により法定代表者の代表権を制限することが可能です。ただし、そうした制限は善意の第三者には対抗できない(『民法典』第61条)ことに留意が必要となります。このため、対抗する効力をもたせるための措置として、政府機関への定款の届出や、時機を見て第三者への内部制限文書の開示等を行う必要があります。

◇日系企業へのアドバイス
   『外商投資法』の施行以来、かつての「外資三法」(『中外合弁経営企業法』、『中外合作経営企業法』、『外資企業法』)は廃止され、日系企業では『会社法』の規定により、ガバナンス構造を改善し、現地法人の社内管理を強化していく必要があります。このためには、中国現地の法律と実務のニーズを熟知し、日本の本社のコンプライアンス文化にも理解がある中国現地の弁護士に委託し、本社と現法を交えて共同で検討し、会社の業務における重大なリスクポイントをおさえ、実行性のあるコンプライアンス案を作り、実施に監督を受けるとよいでしょう。このように対応することで、法定代表者の職権が適切に行使されることを確保し、法定代表者の職権濫用を有効に防止することが可能となります。

作成日:2020年08月27日