最新法律動向

日本のレイオフは中国にあるのか

   新型コロナウイルスの感染流行が経済及び企業にもたらす影響を極力抑えるために、各国で企業支援政策が打ち出されています。例えば日本政府は、企業に対する助成金給付の政策を実施しています。中国政府では日本政府のような企業への助成金給付は行われていませんが、リストラを実施しないか、実施しても対象者を少数に抑えた企業に対しては、中国政府より税務面や労務面で多くの形式の支援が提供されています。中国政府による企業支援政策には、租税徴収の減免政策、高速道路の通行料の徴収免除、2020年2月~6月の社会保険料の企業負担部分の免除や納付猶予、条件付で前年度納付分の失業保険料等を還付する等の措置があります。実務では、一部の企業で、従業員を自宅待機させた期間が1回の賃金支給周期を超えて以降は最低賃金基準の80%額の賃金を支払う措置を取っているところもあります。
   4月に入ってから、ある企業の管理職から、新型コロナウイルス感染流行の影響で、欧米や日本の本社からの注文減少が続き、中国の現地法人では稼働率が低下していることから、中国でも日本のようなレイオフ(再雇用を前提とした一時解雇)制度はないか、中国の現地法人でもレイオフを実施できる可能性はないかとのご相談を受けました。
   法律概念、適用条件から見て、現行の中国の労働法体系には日本のものと完全に一致するレイオフ制度は存在しません。しかしながら、中国では『労働契約法』第41条に規定されている「経済性リストラ」を実施することにより、一定のリストラを行うことで労働者使用のコストを削減する目的を実現することは可能です。以下では、経済性リストラが適用されるケース、実施プロセス、留意点等について、それぞれ簡単にご紹介いたします。

1.経済性リストラを適用するケース
   『労働契約法』第41条の規定により、削減する従業員が20名以上であるか、20名に満たないが企業の総従業員数の10%以上を占め、かつ以下の事由の1つがある場合には、リストラを実行することができるとされています。
(1)『企業破産法』の規定により再編を行う場合。
(2)生産経営に重大な困難が生じた場合。
(3)企業の生産製品変更、重大な技術革新、経営方式の調整を行い、労働契約を変更してもなお人員削減の必要がある場合。
(4)客観的な経済状況に重大な変化が生じ、労働契約が履行できなくなった場合。
   感染流行の影響を受けてリストラを検討する企業のうち、大部分は(2)の「生産経営に重大な困難が生じた場合」を理由にリストラの実行を計画するものです。実務において、「生産経営に重大な困難が生じた」ことについて明確な指標となる規定はなく、各地により執行の基準は完全には一致していません。(2)の理由を適用してリストラを実施することができるかどうかは、通常所在地の人力資源社会保障局(人社局)が情状を考慮して判断するところとなるため、人社局とのかなりの交渉の余地が存在します。弊所の過去の実践経験では、政府機関との交渉においては、通常、数年間分の会計監査報告や、予想収益、支出計画を提出し、生産経営に重大な困難があることを証明することとなります。

2.経済性リストラ実施にあたっての留意点
(1)政府機関との協議・交渉
   実務において、経済性リストラを実施する前に、法律規定による人社局への報告を行う他にも、上級労働組合、公安局、商務局、苦情処理局等の政府機関に対する報告や交渉を行うことをお勧めします。従業員への告知を行う前に、経済補償案及びリストラ計画について政府機関に報告し、政府機関の支持や支援を取り付けることができれば、リストラのスムーズな実施に大変有益となります。弊所の経験では、従業員に告知するまでの秘密保持の問題に関わるため、政府機関への報告を行うタイミング及び報告内容は非常に重要であり、特に注意して設定、準備する必要があります。また、政府機関への報告は1回行って済むものではなく、事前、事中、事後と、複数回にわたって詳細に行うことで、状況に対する政府機関の詳細な把握が得られるものとなります。
(2)リストラ対象に関する一般的制限
   経済性リストラでは削減対象に関する厳格な制限があり、『労働契約法』第42条の規定により、従業員に以下の状況の1つがある場合、経済性リストラを適用して労働契約を解除することはできないとされています。
①職業病の危険のある作業に従事する労働者が、離職前の職業健康検査を受けていないか、職業病の疑似症患者が診断中又は医学観察期間中である場合。
②職業病の罹患又は業務による負傷により、労働能力を喪失したか一部喪失した場合。
③罹病又は業務によらない負傷のために、規定の医療期間中である場合。
④女性従業員が妊娠・出産・授乳期間中である場合。
⑤会社で連続して15年間勤務し、かつ法定の定年退職年齢までの年数が5年未満である場合。
⑥法律に規定するその他の事由
なお、経済性リストラの規定を直接適用することのできない上記の従業員に対しても、テクニックを運用して従業員と交渉することで、協議により従業員との労働関係を解除することが可能となります。
(3)優先再雇用の義務
   経済性リストラを実施した企業で、6ヶ月以内に改めて従業員を採用する場合には、リストラの対象となった元従業員に通知したうえ、同等の条件のもとではそれらの元従業員を優先的に採用しなければならないとされています。

3.日系企業へのアドバイス
   感染対策期間において、政府は社会の安定を特に重視しており、大量のリストラ実施は大量の失業者発生を招くため、経済性リストラのプロセスには特に注意する必要があります。リストラの実施過程においては、30日前までに労働組合又は全従業員に状況を説明し、リストラ計画について労働組合又は従業員からの意見を聴取して計画を修正し、改善する必要があります。
   以上の通り、現地日系企業で経済性リストラを行う際の対応及び実務上の留意点について一般論的にご説明いたしましたが、紙幅に限りがあるため、経済性リストラ対応に関する全ての事項についての詳細な説明はいたしかね、いくつかの重点内容のみを選んで概要のみをご説明いたしました。また、現地法人各社によっても状況が異なり、具体的には現地の日系企業の実状を踏まえて総合的に経済性リストラの対応案を検討することが必要となります。経済性リストラ対応の複雑性に鑑み、経済性リストラ問題に適法かつ適切に対処するためには、弁護士に中立的な立場からのサポートを依頼いただくことをお勧めいたします。

作成日:2020年08月27日