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消費者による高額の損害賠償紛争 人の欠点を暴くことにより賠償を得ることが形を変えた恐喝に

最近、消費者とメーカーの間で発生した「恐喝」事件がメディアで報道され世論の熱い話題となっている。黒龍江省のトラック運転手である李海峰が4袋のインスタントラーメン買い、これを食べようとした時に「調味料袋」の中に「異物」を発見したため、メーカーへ450万元の損害賠償を請求した。李海峰とメーカーの双方が賠償金額の交渉をする過程で、李海峰はメーカー側から警察に通報された。李海峰は、公安機関により恐喝罪の疑いで立件・捜査され、刑事拘留された。

李海峰が450万元の損害賠償を求めた行為は、合法的な権利の維持なのか、それとも恐喝なのだろうか。不合理な権利維持と恐喝の境界線は、どこにあるのだろう。消費者は、どのように権利の維持を図ればよいのだろうか。近日、記者は、この問題について法曹界の人物を取材した。

 合法的な権利の維持なのか、それとも恐喝なのか

メディアの報道によれば、李海峰はインスタントラーメンの調味料袋の中に「明らかなガラス状の結晶」を発見し、食べた後に体の不調を訴えた。このため李海峰はインスタントラーメンの品質問題を疑い、「12315」消費者ホットラインに苦情を申し立て、同時に関係機関へサポートを求めた。しかし、インスタントラーメンが期限切れだったため、何の成果も得られなかった。最終的に、李海峰はインスタントラーメンのメーカーである今麦郎に対して権利の維持を求めることを決めた。

この間、李海峰は自費で上海、西安の第三者検査測定会社を雇い、当時購入したインスタントラーメンの調味料袋に対する検査測定を行った。このうち1つの検査報告では、調味料袋内の水銀含有量が基準の4.6倍を超えていたことが示された。李海峰は、これに憤り、「懲罰的」な目的から300万元の賠償額を提示し、その後に450万元に切り替えた。また、李海峰は検査測定の結果及び今麦郎インスタントラーメンを撮影してミニブログへアップし、著名な偽物バスター」である王海氏に転載されて注目を集めた。今麦郎側は李海峰と協議し、李海峰にインスタントラーメン7箱と電話代を賠償する意思があると示したが拒否された。

李海峰による損害賠償は、消費者の法による求償権の行使なのかどうか。李海峰によるミニブログへのアップは、恐喝なのか、それとも合法的に消費者の知る権利と監督権を行使しただけなのだろうか。

「購入者が購入した商品又は受けたサービスが法律の規定に適合せず、購入者の権益が侵害を受けた場合、法により賠償を主張することは、法律の保護を受けるものです。」北京市匯佳法律事務所の邱宝昌弁護士は、記者の取材を受けた際、次のように述べた。「単純に検査測定結果をネットにアップしただけであれば、その結果が客観的な事実なら、合法的な状況の反映と言えるでしょう。でも結果が真実でないか、資格を持たない検査測定機関による検査測定の場合、今麦郎側の名誉を損なう可能性があり、損害賠償を得ることが目的の脅迫行為の可能性があり、違法な犯罪の疑いがあります。」

北京市仁人徳賽法律事務所の李法宝主任弁護士は、李海峰の行為が恐喝に該当するかどうかは、李海峰の具体的な行為と、主観的な目的から判断する必要があると述べた。李法宝主任弁護士は、「現在の状況からみて、李海峰の行為は、恐喝の疑いがある。先ず、李海峰が期限切れの製品を購入し、それから個人的な検査測定という方法を通じて、検査測定報告書を入手し、今麦郎側へ損害賠償を請求した。損害賠償の目的が満たされないため、李海峰はインターネット等のメディアを通じて告発し、企業の名誉を損ねたことは、李海峰に違法な目的がある疑いがある。」と考えている。

不合理な権利の維持と恐喝の境界線は、どこにあるのだろうか。

消費者の不合理な権利の維持行為が恐喝の疑いに関わる可能性があるのであれば、二者の間の境界線は、どこにあるのだろうか。

華東政法大学の何萍教授は、刑法第274条の規定に基づき、恐喝とは違法に占有することを目的として、被害者に対して威嚇又は恐喝の方法を用いて、公私の金品を強要する行為と指摘している。恐喝と過度の権利の維持の区別は、主観的に違法な他人の公私の金品の故意の占有があるかどうか、客観的に威嚇又は恐喝行為を実施したかどうかとしている。

「違法な占有とは、事実の根拠がなく、法的根拠もなく他人の公私の金品を占有する行為を指します。これに対し消費者の権益が損害を受けてから損害賠償を請求することには全て原因があり、法的根拠があるため、違法な占有には該当しません。巨額の損害賠償は、法律の許す範囲を超えていますが、事実という根拠は、やはり存在しています。また、威嚇と恐喝にも、一定の経緯の要求があり、往々にして違法な手段が採られています。消費者が企業の違法の事実を一定のメディアを通じて発表するだけであれば、消費者の権利救済を求める一種のルートであり、この種の行為は違法性と強制性を具備しておらず、単純に威嚇及び恐喝と評価することは出来ないと思います。」何萍教授は、更にこう分析した。

消費者の権利の維持と損害賠償請求の基準とは

「消費者の権利の維持と損害賠償の基準について、消費者権益保護法第55条に明確な規定がある。経営者の提供した商品又はサービスに詐欺行為がある場合、消費者からの要求に基づいて受けた損失を增加して賠償しなければならない。增加する賠償金額は、消費者が購入した商品の代金又は受けたサービス費用の三倍とする。」邱宝昌弁護士は「また、食品安全法第148条所定の内容も損害賠償の基準であり、『食品安全基準に適合しない食品を生産するか、食品安全基準に適合しない食品であることを知りながら経営した場合、消費者から損害賠償を要求されるほか、生産者又は経営者へ代金の十倍又は損失の三倍の賠償金の支払を要求することができる。』」と指摘する。

邱宝昌弁護士は、消費者権益保護法と食品安全法の規定している賠償基準は、法律が消費者の権益を保護するため経営者に対しての最低限の基準であると述べた。実務上の取り扱いでは、経営者に詐欺行為があるかどうか、明らかに商品の欠陥を知っていたかどうかに関わらず、双方が協議により合意しさえすれば、消費者への損害賠償額は10倍を超えるか、それより多いこともあり、法律も禁止していない。これに対し、双方の合意が成立しなかった場合、法律は当然消費者からの巨額の損害賠償の主張を支持しない。この時、消費者が脅迫、威嚇等、法律が禁止する手段を採って相手を追い詰めた場合、犯罪の疑いにより、刑事的な規制を受ける可能性もあるという。

消費者からの高額の損害賠償に対し、企業はどう対処すべきか

消費者からの高額の損害賠償に対して、企業はどう対処すべきだろうか。邱宝昌弁護士は、企業は先ず自らの商品が法律の規定に適合しているかどうかセルフチェックを行い、自らの問題には勇敢に立ち向かい、購入者からの損害賠償請求が合理的な範囲を超えていたとしても、企業には一定の忍耐力が必要ではないかと提起している。確かに問題があっても、購入者は過激な行為をとらず、双方で可能な限り協議により解決する。購入者による損害賠償請求行為が確かに企業の合法的な権益を侵害している場合、企業は苦情申立、通報、訴訟等の方法を通じて解決を図ることができる。何萍教授も、企業は必ずしも警察に通報する必要はなく、消費者と誠意をもって話し合い、必要な場合には広い心をもって過ちを認め、誠意をもって謝罪し、なお且つ損害賠償を行い「有利な立場から、人を見下してはならない。」と考えている。

但し、取材した専門家が一致して指摘することは、もし消費者の損害賠償請求行為に犯罪の疑いがあるなら、別問題であり、企業には勿論警察への通報を選択する権利があるということである。李法宝主任弁護士は、「消費者によっては、商品に現われた個別の瑕疵により、生産者や経営者に高額の賠償金を請求したり、場合によっては世論の影響力も借りて恐喝や弱点を攻撃し、経営者に高額の賠償金か口止料の支払を迫っている。こうした行為は、事実上一種の形を変えた恐喝である。こうした行為に対しては、刑事的な規制を行うべきである。」という。

李法宝主任弁護士は、国が消費者権益保護法を制定し、消費者を保護することは、経営者を保護するためでもあり、過度に一方を強化して、他方を弱体化してはならないと考えている。「勿論、公安機関も客観的な事実に基づいて消費者の損害賠償請求行為を認定し、企業が刑事の名を借りて、負うべき責任を免れようとすることを防止しなければならない。消費者の正当な権利の維持が軽視されないがしろにされている場合についても、公安機関はハッキリと判別しなければならない。」

(北大法宝より)

作成日:2015年09月21日