最新法律動向

最高裁、飲酒運転の刑事罰に関する司法解釈について検討-執行猶予の適用は慎重に-

 飲酒運転に刑事罰が適用されるようになって丸1年が経過した。この間、警察当局は、検問突破、検問時の飲酒、下車拒否等々様々なアルコール検査回避の「テクニック」に出くわした。飲酒運転への刑事罰の適用についても、更なる明確な法的規定はなされなかった。また、裁判所によって飲酒運転に対する判決の量刑も異なり、一部の裁判所では執行猶予判決を下すことが多すぎ、法の威厳を失わせていた。最高裁は現在飲酒運転事件を調査研究中であり、関連する司法解釈の公布を準備中だという。

 公安部の黄明副部長によれば、中国全土の警察当局では、これまで飲酒運転事件を36.8万件立件した。これは昨年同期比で40%の減少だという。北京市・上海市の2都市に於ける飲酒運転の減少率は70%にも達しているという。「運転」は、飲酒を断る最も良い口実となった。中国全土において飲酒運転に刑事罰が適用されてから1年間の飲酒運転の減少率は、いずれの地域でも40%を上回っている。但しこの1年間、飲酒運転に対する調査は困惑してもいる。検問所で下車して飲酒したり、車の中で別人に交代したり、伝染病に感染していると交通警察官を脅したり、Uターンして検問突破を強行する者さえ現れ……。飲酒運転への検問を避ける手段は尽きることがない。専門家は、飲酒運転への刑事罰の適用に関する法律条文を更に明確化するように提案している。 飲酒運転に刑事罰が適用されてから1年間の喜びと憂慮の中で、全て刑事罰を適用すべきか否か、という点が最も議論の多い点である。

アルコール検査の回避に対し、法は有効に機能していない
 最近公安部と中国法学会が開催した「2法律修正案」実施1周年の特定テーマシンポジウムに於いて、公安部の黄明副部長は、飲酒運転が正式に刑事罰を適用されるようになったこの1年間で、都市住民の飲酒運転を拒否する意識が明らかに向上し、「乗るなら飲むな、飲んだら乗るな。」という観念が徐々に人々に浸透しつつあると述べた。

 これに伴い、全国の飲酒運転による事故及び死亡者数も明らかに減少していた。全国政治協商会議の委員で、蘇州大学法学院楊海坤教授は、この変化を「厳しく大きな変化であり、国と文明社会の進歩を示している。」と形容した。これより前には、清華大学法学院の余凌云教授が音頭を取り、「中国の飲酒運転及びスピード運転改善に関する法律」という研究报告を完成させていた。この報告の中で、中国では飲酒運転への刑事罰適用の1年目であり、飲酒運転の運転手がアルコール検査を回避する現象が頻発していて、これも警察が法を執行する上での難題及び困惑であると述べた。

  検査を受ける際、運転手によってはその場で飲酒し、運転前には飲酒していないと「証明」しようとする者もいれば、運転手によっては固く窓を閉じ、車の中に閉じこもり長時間も出てこなかったり、車の中の他人へ交代する者もいれば、伝染病に罹患しているとして交通警察官を脅かす者までいる。更に心配なのは、運転手によっては検問を強行突破したり、暴力をもって法に抵抗しようという者までいることである。 余凌云教授は、こうした飲酒運転手の「テクニック」は、現在のところ法律上は脅迫には該当しないという。下車して飲酒する等のアルコール検査回避行為は、治安管理処罰弁法に基づけば「公務執行妨害」行為に該当し、処分は5日以上10日以下の拘留及び500元の罰金を科されるに過ぎない。運転手を交代する行為についても、刑法には関連規定が存在しない。

飲酒運転に対する各地の量刑はバラバラ
 去年6月、遼寧省瀋陽市にて内装建材の販売をしている自営業主陳星(仮名)は、交通警察による臨検によりアルコール量が基準を超えていると測定され、最終的に2ヶ月の拘禁並びに罰金を併科された。当時の体験を語る際、陳星は今でも後悔しきりである。陳星は、テレビや新聞報道で飲酒運転に刑事罰が適用されるというニュースを見ていたものの、瀋陽人には飲酒の習慣があり、商談、手続き、友人との集まり等で何杯か飲むのは当たり前であるから、その当時は気にもかけておらず、いつもより2、3杯少なく飲めば、刑法に基準に達しないと思っていたと言った。しかし、「気にかけなかった」ために、陳星は牢屋に入ることとなった。この事件が発生したため、陳星の母親は心臓病が再発しそうになり、家族も大きな精神的な重圧を被ったという。その後、陳星は商談であるか集会であるかに関わらず、運転する際には一滴も酒を飲まなくなったという。

 但し、陳星と同様な飲酒運転を行った運転手でも、同様の処分を受けなかった者もいる。2011年6月3日、新疆で中国全土で最初の飲酒運転刑事罰免除案が誕生した。克拉瑪依市の王運転手は刑事罰を免除される判決を受けた。刑事罰免除の理由は、血中のアルコール含有量は、百ミリリットル中83.06ミリグラムであり、飲酒運転超過基準からの超過が少なくないというものである。摘発後の罪状認識の態度も良いため、裁判所は最終的に当該案件を「情状が軽微である。」と認定した。

 この1年間に、湖北、広東等の地域で相次いで飲酒運転刑事罰免除案が誕生した。刑事罰免除の主な状況は、基本的に飲酒の程度が軽微で、人身事故、財産的な損失を齎しておらず、罪状認識の態度も良いというものである。最高裁は、飲酒運転に刑事罰を適用する際の原則は、量刑を統一することであるが、過去1年間の司法の実践においては、地区の違いにより飲酒運転事件への量刑には明らかな差が存在している。

 北京における飲酒運転事件の判決では、実刑率は99%となっている。これに対し広東省、安徽省、重慶市、雲南省で執行猶予が適用される率は40%を超えており、一部都市の裁判所における執行猶予判決率は73%にも上っている。安徽省合肥市蘆陽区検察院が去年の5月から今年2月までに判決を下した25件の事件において、被告人へはいずれも執行猶予を適用していた。

学者は、飲酒運転への執行猶予は慎重にするよう提案
 量刑を統一するという原則への理解不足から地方によって量刑が一致しないという状況が生じていることについて、中国刑法学研究会会長兼北京師範大学刑事法律科学研究院の趙秉志院長は、飲酒運転は本来軽罪であり、刑事罰も軽いものであるため、大量に執行猶予を適用したり、刑事罰免除とした場合、刑法の威厳を著しく損ねることとなり、その法的効果及び社会的効果に影響を与えることになると考えている。従って、飲酒運転事件への執行猶予の適用は慎重でなければならず、刑事罰の免除は更に慎重でなければならないという。

 趙秉志院長によれば、『刑法修正案(8)』の規定及び法律改訂の考え方に基づけば、飲酒運転行為に対し一律に刑事罰を科すべきではなく、刑事罰を科す飲酒運転行為は少数であるが、大量に飲酒して運転する行為に対しては刑事罰を科すべきであるという。「情状が軽微で危害が大きくない」という飲酒運転について刑法第13条の規定に基づいて刑事罰を科しないほかは、一般的な状況か状況が劣悪な飲酒運転行為には、何れも刑事罰を科すべきであるという。

 余凌云教授も趙秉志院長の観点に賛成している。余凌云教授は、各地の裁判所の量刑不統一を是正するには、根本的には最高裁が飲酒運転事件の審理に関する司法解釈を発表し、法律の取扱規定を細分化し、飲酒運転事件を有罪とするか無罪にするか不明確な点を明らかにすべきだと考えている。

 中国法学会犯罪学研究会副会長、北京師範大学刑事法律科学研究院常務蘆建平副院長は、世界に全く同一の人物が存在しないように、世界には全く同一の案件はないと考えている。ある飲酒運転手に対し、道路交通安全法が規定する行政処分を適用することで充分に運転手を後悔させ更生させるという目的を達成できているため、一律に刑事責任を追及すべきではないという。

最高裁は司法解釈の公布を準備
 飲酒運転への刑事罰適用を実施し始めた頃、中国全土の世論が「飲酒運転手を一律に刑事罰を科す。」ことについて皆が賛同の声を上げる中、最高裁の張軍副院長は、社会に対する危害が明らかに軽微で、危害が小さい行為は犯罪ではないと考えていた。このため各レベルの裁判所へ危険運転罪の構成要件を正確に把握するように求め飲酒運転の基準に達した自動車の運転手は、一律に刑事犯罪を構成するものではないと発言していた。

 最高裁刑事第五法廷の高貴君廷長は、飲酒運転への刑事罰の適用が実施されてから1年間、中国全土の裁判所が受理した事件は23,000件余りであり、うち結審したものは21,000件余り、その結審率は92.9%になっていると述べた。飲酒運転案件の審理において、各レベルの裁判所は飲酒運転事件に対して普通全体的に厳しい態度で臨んでいる。特に飲酒運転の状況が悪質な者に対しては厳しく処分している、例えば飲酒運転により交通事故が発生したり、飲酒運転した後に逃走したり、飲酒の程度が著しかったり、公安当局による法に基づく検査を逃れたり、妨害するなど。この1年に発生した新たな状況に対し、中国法学会党組書記兼常務副会長の陳冀平氏も、司法機関は飲酒運転事件関連の法律法規を完備し、地方裁判所の審理における量刑の公平性を保証しなければならないと述べている。

 余凌云教授は、司法当局が飲酒運転手の「違法すれすれ行為」についての法的認定を行い、これらの行為の発生を速やかに制止できるようにしなければならないと考えている。情報によれば、最高裁は現在中国全土の飲酒運転事件について調査研究を行っており、なお且つ関連する司法解釈を公布することを準備中だという。

■データ
 去年、中国全土で発生した飲酒運転による事故は3,555件。うち死亡した者は1,220名であり、それぞれ前年度より18.8%及び37.7%低下した。

 裁判所が飲酒運転案件を審理した被告人は、農民、出稼ぎ農民、無職が占める割合が高く、それぞれ35.6%、12.8%、18.5%で総数の3分の2を占めている。

(百度ニュースより)

作成日:2012年06月08日