新規定:定年超過者の雇用契約について -NEW-
2026年5月25日、人力資源・社会保障部は、国家衛生健康委員会、緊急管理部、税務総局、国家医療保険局と共同で『定年超過労働者基本権益保障暫定規定』(以下、『暫定規定』という。)を公布し、2026年7月1日より施行すると発表しました。
昨今の高齢化や労働力不足、段階的な定年延長政策の実施に伴い、多くの企業が法定定年年齢(現行の定年延長政策に基づき定められた法定定年年齢を指す)を超えた労働者(以下、「定年超過者」という。)を採用していますが、企業とこれらの労働者の間では、労働報酬や残業代、労災などの問題を巡る紛争が生じているようです。
本『暫定規定』は、企業とこれらの従業員との基本的な権利義務(労働報酬、残業代、休息・休暇、労災保険、労働規律の遵守など)にどのような変化をもたらすのでしょうか。今回は、本『暫定規定』のうち、企業の雇用に関連する事項についてQ&A形式で簡潔にご紹介いたします。
Q1:本『暫定規定』の適用範囲は?定年超過者はすべて対象となるのか?
A:本『暫定規定』は、主に中国国内の企業(外資系、国有企業、民間企業を問わず)が、企業の労働管理下で労働報酬を伴う業務に従事する定年超過者を雇用する場合に適用されます。また、法定定年に達していないものの、早期退職の手続きを済ませた者を企業が再雇用する場合にも、本『暫定規定』が適用されます。(第2条)
実務上、企業が他者に会社の業務の一部(清掃、警備など)を委託しているものの、企業の労働管理(勤怠管理など)を受けていない場合は、対等な主体間の業務委託関係であり、本『暫定規定』は適用されないと考えられます。
また、段階的な定年延長の手続きを行った労働者については、定年延長期間中の企業との関係は『労働契約法』等の労働法の規制を受け、本『暫定規定』は適用されません。(第23条)
Q2:定年超過者は残業代、病気休暇、年次有給休暇を請求できるか?
A:従来、定年超過者との契約において、労働時間を1日10時間としてその労務報酬を定め、残業代は支払わないとする契約が見られました。しかし、本『暫定規定』の施行後、企業は定年超過者の休息・休暇を合理的に手配し、例えば1日8時間以下、週40時間以下、少なくとも週に1日の休日を保証することなどが必要となります。また、残業についても、状況に応じて1.5倍、2倍、または3倍の残業代を支払う必要があります。(第5条、第9条)
ただし、本『暫定規定』における休暇権は狭義の休暇権であり、法定祝日の休暇のみを指していると考えられます。年次有給休暇や病気休暇、療養期間について双方が合意していない場合、定年超過者がこれらの休暇を享受することはできません。これらの休暇については、紛争を避けるためにも、雇用契約書で明確に定めることをお勧めします。
Q3:定年超過者の労災保険、基本養老保険、基本医療保険の納付義務はあるか?
A:本『暫定規定』では、各種社会保険についてそれぞれ規則が定められています。
(1)労災保険
本『暫定規定』の施行前、定年超過者を労災保険のみに加入させることを認めるかどうかには地域差がありましたが、大多数の地域では、労災保険のみに加入することは認めていなかったため、企業が加入を希望しても叶わない状況となっていました。一方、一部の地域(上海、青島など)では、定年超過者が労災保険のみに加入することが認められていました。
本『暫定規定』の施行後、労災保険については、個人ではなく企業で加入することが法的義務となりました。企業にとっては、労災リスクのコストの一部を転嫁することになるため、有利な政策といえます。また、これまで多くの企業が加入していた雇用者責任保険については、条件を満たす場合に継続加入するか否かを選択することも可能です。(第15条)
ただし、現在の『労災保険条例』には、定年超過者の労災保険給付に関する特別な規定がありません。障害補償金、休業中の給与、介護費、一時障害就業補助金などの受給可否およびその受給方法については、人力資源・社会保障部および関係当局による実施細則の制定を待つ必要があります。
(2)従業員基本養老保険および基本医療保険
本『暫定規定』では、実情に応じて異なる規定が設けられています。(第16条、第17条)
①すでに基本養老保険・医療保険の給付を受けている場合、その給付内容に変更はありません。立法の趣旨から見れば、保険料を納付しなくても問題ないとも考えられます。
②累計納付期間が国の定める納付年数に達しておらず、基本養老保険または基本医療保険の給付を受けていない労働者については、個人の資格で保険料の納付継続を選択することもできます。また、企業と協議し共同で納付することも可能で、その場合、個人の負担分については企業が源泉徴収します。定年超過者の基本養老保険および医療保険については、企業による納付は義務付けてられていないため、企業はこれらの保険料の納付について自主的に選択することができ、企業負担分についても、従業員と協議の上、個人の負担とする取り決めを行うことも可能となります。
Q4:過去に定年超過者と締結した退職後の再雇用契約は有効か?
A:本『暫定規定』の施行後、企業は定年超過者と雇用契約書を締結し、契約期間や業務内容、勤務地、勤務時間、休息・休暇、労働報酬、社会保険、労働保護、労働条件、業務上の安全衛生等の事項を明確に定める必要があります。過去に定年超過者と締結した契約が、本『暫定規定』の強制要件に違反していない場合は引き続き有効となりますが、追加が必要な条項については、修正・追加を行うことをお勧めします。(第6条)
また、実務において、雇用契約に契約の終了または解除の条件(定年前の労働契約では、法律の規定外の終了・解除条件や経済保証金、賠償金支払わないとする条項を定めることはできない)を明記しておくことは、企業が雇用に関する自主権を行使する上で非常に有用です。契約の条件を満たす場合、企業は契約を終了または解除することができ、経済的補償金や賠償金の支払いも必要ありません。また、雇用契約書を締結していないことによる2倍の賃金支払いなどのリスクも生じません。
Q5:定年超過者による労働監督機関や労働仲裁への申立は有効か?
A:従来は全国的に、老齢年金を受給している定年超過者と企業の関係は労務関係であり、『民法典』などの民事法の規制を受けるため、労働争議の受理範囲には含まれないとされていました。「老齢年金給付を受給していない」定年超過者については、各地で取り扱いに差異があり、企業にとっては雇用リスクや不確実性が存在していました。
しかし、『暫定規定』施行後は、年金の受給や、双方が労働関係か労務関係かという区別はなくなり、4つの基本的権利の保障などの観点から、受理または管轄する当局が決まることになります。
(1)①労働報酬(賃金の不払い・遅延、最低賃金、残業代)、②休息・休暇(労働時間、休日、法定祝日)、③労働安全衛生(安全衛生、職業病)、④労災待遇保障の4つの基本的権利に起因する紛争については、労働仲裁の事前手続きを経て労働監督機関が受理します。直接裁判所に提訴することはできません。
(2)上記の4つの基本的権利以外の事項(有給年次休暇、年末賞与、守秘義務、違約責任など)はすべて民事紛争に該当するため、裁判所の管轄となります。(1)と(2)の請求事項が同時に含まれている場合は、労働仲裁と裁判所が別々に処理することになる可能性があります。
◆日系企業へのアドバイス
本『暫定規定』の施行後は、企業の現行の雇用制度、退職後の再雇用制度、再雇用者の給与額、雇用管理(給与支給記録、勤怠管理、職務および安全研修記録、労災申告)、個人所得税の源泉徴収(給与所得か労務報酬所得か)などについて、大きな影響が生じることになります。そのため、企業の労務リスクを軽減するためには、現地の経験豊富な弁護士とともに雇用管理を見直し、就業規則や退職後の再雇用制度、再雇用契約書などを改訂することをお勧めいたします。
作成日:2026年06月10日
