対外投資管理に関する中国初の新規則 -NEW-
2026年6月1日、中国国務院は『対外投資に関する国務院による規定』(以下、『規定』という。)を公布しました。本『規定』は、対外投資に関して政府当局が初めて定めた行政法規で、2026年7月1日から正式に施行されます。本『規定』は、中国国内の企業、その他組織、および個人(海外在住の中国公民および中国国内に投資資産を持つ華人を含む)による海外投資に重大な影響を及ぼすため、今回は本『規定』の重点となる内容を以下にまとめます。
1.具体的な適用範囲の明確化
本『規定』第2条では、規制の対象となる主体範囲と投資範囲を以下のように明確化しています。
(1)適用主体範囲
中国国内の企業、その他の組織および居住者個人による海外への投資(資産投入、権益、融資、担保提供などによる海外の企業または資産の権益取得を含む)は、すべて本『規定』の規制を受けます。
留意すべき点として、海外で長期にわたり就労・生活している中国公民であっても、中国国内居住者個人(中国に戸籍および税務上の居住地を有する人)に該当する場合は、本人が海外・国内のいずれにいても、その対外投資行為は本『規定』の適用対象となります。
一方、外国国籍を取得し、海外に長期居住している華人は、原則的に「中国国内の投資家」には該当せず、本『規定』の規制対象とはなりません。但し、国内の企業・機関を通じて海外に投資する場合、当該国内企業は本『規定』の規制を受けることになります。
(2)規制対象となる対外投資範囲を拡大
本『規定』でいう「対外投資」行為とは、海外での会社設立だけでなく、持分取得、不動産購入、株式取引、融資・担保提供、投資信託購入、信託設立、シェルカンパニーなどを通じた海外企業株式の間接保有、海外投資資産・権益を用いた中国国外での再投資行為、およびその他「直接または間接的に他国(地域)の企業・資産の所有権、支配権、経営管理権、もしくはその他の関連権益取得」する行為が含まれ、これらはいずれも本『規定』の規制対象となります。
(3)香港・マカオ・台湾への投資も規制対象
本『規定』第32条の定めに基づき、中国国内の投資家による香港、マカオ、台湾地区への投資については、本規定を参照して執行されます。但し、法律、行政法規、または国務院に別段の定めがある場合は、その定めに従って処理するという点に留意が必要です。
2.投資プロジェクトに対する段階的・分類的管理
同『規定』第10条および第11条によると、国務院の投資主管部門および商務主管部門は後続で国務院の他の部門と協力し、国家経済発展の需要や、関連国(地域)の投資環境とリスクレベルに基づき、対外投資を以下の3段階に分けて適時制定・調整を進めるとしています。
(1)奨励:新エネルギー、ハイエンド製造業などの実体プロジェクトに該当する投資プロジェクトについては、手続きや審査が簡素化される可能性がある。
(2)制限:不動産、娯楽業、シェルカンパニー型オフショアファンドなどは厳格な審査を受ける可能性があり、投資規模が制限される可能性もある。
(3)禁止:軍事技術、賭博、国家安全を脅かす技術・データ移転などの投資プロジェクトの対外投資は禁止される。
3.「人材、技術、サービス、データ」も対外投資規制対象
同『規定』第13条では、技術者の海外派遣、海外勤務要員の組織、海外への技術指導の提供、海外研修の手配などにより、国が輸出を禁止または制限している技術、サービスおよび関連データを海外に移転してはならないことを規定しています。これは、「人材や技術の海外移転」に頼ることが困難になるということを意味します。
同『規定』施行後、対外投資の規制は、比較的単純な資金流出の防止から、国内貨物、技術、サービスおよび機密データの流出を防ぐセキュリティ審査へと拡大されます。海外投資のセキュリティ審査は、投資自体のみならず、関連資産や権益の譲渡・処分も対象となり、今後は、以前多く見られた「資産は動かさずに、海外のシェルカンパニー持分を移動する」という取引構造が中国政府当局の審査対象となる可能性もあります。
4.対外投資関連の法定手続
同『規定』第12条の規定に基づき、通常の対外投資は、法に沿って以下の手続を行うことが必要です。
(1)審査・届出:通常、投資額および業種に応じ、国家発展改革委員会または商務部門において承認申請または届出を行う。
(2)情報報告:資料を事実通りに提出し、監督検査に協力する。
(3)越境資金登記:外国為替登記などの手続(例:『国内居住者が特別目的会社を通じて行う海外投資・融資・リターン投資に関する外国為替管理上の問題に関する国家外国為替管理局による通知』発文番号:匯発〔2014〕37号)。
実務上、上記手続が必要かどうかは、主に投資の性質と資金の海外送金方法によって決まります。例えば、中国国内の企業または個人が海外直接投資(ODI)を行う場合、関連する審査・届出、および越境資金登記の手続を履行しなければなりません。一方、中国の居住者個人がQDII(適格国内機関投資家)などを通じて、限度枠内での証券市場投資(株式取引)を行う場合、通常、個人が別途ODIの審査・届出手続を行う必要はありませんが、資金源の適法性については確認が必要です。したがって、対外投資において手続を要するかどうかは、投資タイプや海外送金方法などに基づいて個別に判断する必要があります。
5.対外投資違反行為に対する処罰の大幅強化
同『規定』第27条では、政府当局による投資違反行為に対する処罰が強化されました。具体的には以下の通りです。
(1)禁止されている対外投資先への投資:投資活動停止命令、定められた期限内における持分・資産の処分命令、違法所得没収と共に投資額の1‰~5‰の罰金を科す。これに従わない場合は5‰~10‰の罰金を科すと同時に、責任者個人に対し5万元~10万元の罰金を科す。
(2)届出の未提出または偽造:違法所得の没収および投資額の1‰~5‰の罰金を科す。是正を拒否した場合、5‰~10‰の罰金、投資の停止を命じ、定められた期限内における資産の処分を命じる。
(3)賄賂・詐欺的手段による届出:届出書類取消、違法所得没収と共に罰金を科す。
(4)重大違反行為:1~3年間の対外投資禁止。犯罪を構成する場合は刑事責任を追及する。
また、上記(2)(3)の行為があった場合、責任者個人に対しても2万~5万元の罰金が科されます。
◆企業・在日華人・中国公民へのアドバイスおよび留意事項
(1)海外投資に対する監督管理を強化する一方で、政府当局は企業の海外進出投資を支援する一連の規定も打ち出しています。例えば、法律、税務、金融、経済貿易、物流、税関、出入国、貿易促進などの分野において、各政府当局がサービス、投資ガイド、リスク防止対策、および対外投資の融資サービスなどを投資家に提供することを奨励・要請していることから、海外進出企業や投資家は、政府当局と積極的にコミュニケーションを取ることで、自身に有利なサービスを受け、合法的権益を守ることができます。
(2)政府当局からの指摘や処罰を回避するため、以下の事項に留意しつつ、対応策を講じることをお勧めいたします。
①自身が本規定でいう「中国国内居住者個人」に該当し管理対象となるか否かについて、中国現地の実務経験を持つ弁護士に確認することをご検討ください。
②本『規定』第33条では、中国国内居住者個人の対外投資に関する具体的な管理方法については国家発展改革委員会および商務部が別途制定するとしており、個人を監督管理するための実施細則策定は未完了です。細則公布までは現行の外貨管理などの規定に従って執行されますが、引き続き後続の関連政策発表を注視する必要があります。
③中国政府当局は、いわゆる「金税四期」やビッグデータを活用し、資金、人員、情報、データなどの越境移転に対し監督管理を強化し続けています。そのため、QDII、サウスバウンド取引、銀行のコンプライアンスに準拠したオフショア資産運用商品など正規ルートを通じた投資をお勧めいたします。
④中国国内の個人による海外の生命保険や投資型配当保険への加入は、現行の外貨管理政策の下では「未開放・未承認」の資本項目に該当するため、本新規則施行後はコンプライアンスリスクが一層高まる可能性があります。
⑤多額の国外資産を配分する前に、専門の弁護士や顧問税理士に相談し、届出や資金登記などのコンプライアンス手続きが必要かどうかを明確にしておくことが大切です。また、AI、半導体、量子コンピューティング、データ集約型ビジネスなどセンシティブな分野への投資については、海外のシェルカンパニーを通じて行われていたとしても、中国政府当局による国家安全保障審査の対象となる可能性があります。
作成日:2026年06月09日
