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在日中国人が日本で資産を相続する際の留意点:相続の順位と相続税

近年、多くの中国人が海外で投資・生活・就労・不動産購入を行うようになり、国際相続に関する紛争件数も年々増加しています。日本に資産を保有する中国人が死亡した場合や、中国人と外国人の親族間で相続が発生した場合、相続のルールは中国国内とどのように異なるのでしょうか。
そこで今回は、日本における相続の順位、相続分および相続税の概要について簡潔に紹介します。

1. 法定相続の順位
原則として、遺言による相続が法定相続に優先します。有効な遺言がある場合は遺言に従って遺産を分配します。しかし、被相続人が生前に有効な遺言を作成していない場合、かつ相続人同士で遺産分割に合意できない場合には、法定相続が適用されます。

日本の法定相続の順位は中国と異なります。中国では、配偶者・父母・子が第1順位、兄弟姉妹・父方の祖父母・母方の祖父母が第2順位となり、遺産は同順位の相続人に均等に分配されます。日本では『民法』887条・889条・890条などの規定により、配偶者は常に相続人であり、どのような状況でも相続権を持ちます。そして、他の相続人(血縁の遠近により優先順位が決まる)と共同で遺産を分配します。

なお、法定相続人になれるのは婚姻届を提出した配偶者のみで、事実婚のパートナーには法定相続権はありません。
配偶者以外の親族の相続順位は以下のとおりです。

第1順位:子(実子・非嫡出子・養子)
・2013年以降、非嫡出子も嫡出子と同等の相続権を持つ。
・子が既に死亡している場合は、その子(被相続人の孫またはその他の直系卑属)が代襲相続する。代襲相続とは、相続人が被相続人より先に死亡した場合に、その直系卑属が本来その相続人が取得すべきであった相続分を代わって相続することをいう。

第2順位:父母・祖父母などの直系尊属
・被相続人に子や孫がいない場合、配偶者とともに相続。
・父母が祖父母より優先。

第3順位:兄弟姉妹およびその子による代襲相続
・第1順位および第2順位の相続人がいない場合に相続。
・兄弟姉妹が死亡している場合、その子が代襲相続する。
いずれの場合も、前順位の相続人が存在すれば後順位の相続人は相続できません。

2. 法定相続分
日本の法定相続分も中国と異なります。中国では、同一順位の相続人には原則として均等に分配されるため、配偶者・父母・子の相続分は同じになります。日本では配偶者と他の相続人が誰であるかにより相続分が変わります。
(1)配偶者と他の相続人が共に存在する場合の法定相続分

他の相続人

配偶者相続分

他の相続人の相続分

1/2

子が1/2を均等に分配

直系尊属(父母/祖父母)

2/3

直系尊属が1/3を均等に分配

兄弟姉妹

3/4

兄弟姉妹が1/4を血縁関係に応じて分配

(2)配偶者がいない場合
① 子のみ:子が均等に分配
② 直系尊属のみ:同一世代間で均等分配
③ 兄弟姉妹のみ:
・全血(同父同母)兄弟姉妹:均等分配
・全血と半血が混在:全血が2/3、半血が1/3

(3)配偶者のみの場合
・配偶者が単独で100%相続
なお、これらの法定相続分は相続人同士で合意が成立しない場合にのみ適用され、当事者で異なる割合を協議することも可能です。

3. 日本の相続税
中国には遺産税(相続税)はありませんが、日本では相続が発生すると遺産に対して相続税が課税されます。概要は以下のとおりです。
(1)課税対象
・不動産、動産、現金、預金、有価証券、特許、債権、生命保険金、退職金など
・相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産
相続税の計算式
相続税 =(各種資産 − 控除項目 − 基礎控除額)× 税率
(2)控除項目
・負債
・葬儀費用
・配偶者控除
・未成年者控除
・相次相続控除(短期間に連続して相続が発生した場合)など
(3)基礎控除額(非課税枠)
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)
(4)税率
日本の相続税は超過累進税率を採用しており、相続財産の評価額が高くなるほど税率も高くなります。最低税率は10%、最高税率は55%です。
実務上、小規模宅地の特例や、事業用資産を継続して使用する場合(すなわち、相続した土地・建物が事業経営に使用され、かつ申告期限まで継続して事業に用いられる場合)の特例など、一定の軽減措置を適用できることがあります。

◆ 在日華人・外国人へのアドバイス
実際の相続手続は複雑で、とくに国際相続の場合はさらに難易度が高くなります。中国と日本では、相続人の範囲・相続順位・相続分の規定が異なるため、紛争が生じた際にはまずどの国の法律が適用され、どこで手続を行うかを確定することが極めて重要です。
また、在日華人や外国人が国際相続や不動産手続を行う際には、現地法に基づき公証・認証など複数の手続を要し、日本や中国の関係者・役所との連絡や証明書類の取得が必要となることもあります。
さらに、日本の相続税制度は高税率・分割課税・計算方法の複雑さが特徴であるため、制度を正しく理解し適切に税務対策を行うことは、日本での投資・資産運用・資産承継において非常に重要です。
大口の資産を含む相続が予想される場合は、事前に弁護士・会計士・税理士などの専門家に相談し、適法かつ合理的なプランを策定することをお勧めします。

作成日:2025年11月27日