法律情報

電子メールで締結された契約の仲裁条項は、書面合意とみなされるか

Q1.東京都に登記している日本企業です。以前、青島のB社と電子メールを通じて売買契約を締結した中で、「甲乙双方は、契約にかかる紛争を日本国東京都にある商事仲裁協会に申し立て、判断を仰ぐことに同意する。仲裁判断には、日本国の商事仲裁協会の商事仲裁規則及び日本法を適用する。」という仲裁条項を約定しました。

その後、B社に契約違反があり、当社より契約の約定に基づいて東京都にある商事仲裁協会へ仲裁を申し立て、当該商事仲裁協会により法に基づく判断が下されました。しかしB社は、電子メールにより締結した契約中の仲裁条項は、書面の契約として有効ではなく、また仲裁判断の違約金があまりに高額であり、「違約金は実際の損失を補償することを目的とする」という中国の公共政策に違反することを理由に履行を拒否しました。このため当社は、青島の裁判所へ仲裁判断の承認と執行を求める訴えを提起しています。電子メールにより締結された契約に約定する仲裁条項は、有効な書面による合意であると言えるのでしょうか。

A1.日本と中国は、ともに『外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約』(以下『ニューヨーク条約』という)の締約国であるため、上記の仲裁判断問題については『ニューヨーク条約』の関連規定が適用されることとなります。『ニューヨーク条約』第2条第2項によれば、「書面による合意」とは、契約中の仲裁条項又は仲裁の合意であって、当事者が署名したもの又は交換された書簡若しくは電報に載っているものを含むものとする。」と規定されています。

日本と中国が『ニューヨーク条約』に加盟した当時は、電子メールのような電子通信方法は存在しませんでしたが、「交換された書簡若しくは電報」という文言の字面の意図、文意の解釈からすると、電子メールも書面による合意の一種に該当するものと思われます。したがって、「電子メールにより締結された契約」は、有効な書面による合意と認定されるべきものと思われます。

Q2.B社は、仲裁判断の違約金が高額すぎることが中国の公共政策に違反することを理由に、仲裁判断の承認及び執行を拒否できるのでしょうか。

A2.『契約法』及び関連する法令により、違約責任及び紛争の解決方法は、契約の実質的な内容に該当するため、当事者が協議して約定するものと規定されています。今回のケースでも、当事者が契約の締結を協議する時点で、違約金及びその適用条件は予見できるものであったはずです。なおかつ当事者は、契約書の中で紛争の解決については仲裁機関に委ねると明確に約定しています。仲裁機関は、紛争に対する判断権を持つため、今回の結果は仲裁を通じて紛争の解決を図った当事者が受け入れるべきものであるとも言えます。外国の仲裁機関が法に基づいて下した仲裁判断を承認及び執行することは、中国の基本的な法律制度に違反することではなく、中国の根本的な社会的利益が損なわれたわけでもないため、日本の商事仲裁協会が下した仲裁判断を承認し、執行するべきです。

通信手段の発達に伴い、仲裁条項は、紙ベースの「書面による合意」に限られるものではなくなりましたが、仲裁条項の内容の合法性、正確性、完全性には、なお注意を払う必要があります。日系企業で仲裁条項を約定するにあたっては、紛争となった場合に法に基づき仲裁を申し立てる際の仲裁事項、仲裁場所、仲裁機関、仲裁規則及び適用法律等について明確に約定したうえ、仲裁プロセスが合法に行われるよう注意を払うことで、発生した契約紛争を、仲裁により解決することができない、或いは仲裁判断が下されても承認や執行ができなくなるといった事態を避ける必要があります。

作成日:2017年04月14日