最新法律動向

2016年度の最低賃金基準

 最近、天津市、上海市、山東省等多くの地域で現地の最低賃金基準を調整する文書が発表されました。今回は、最低賃金基準について簡単に説明いたします。

 (最低賃金基準とは)

労働者が法定の勤務時間か法に基づいて締結した労働契約に約定された勤務時間内に正常な労働を提供したという前提のもと、雇用者が法に基づいて支給すべき最低労働報酬。

 最低賃金基準の調整

●具体的な調整

最低賃金基準は、各省、自治区、直轄市が各地の実情に基づいて決定し、プランを調整します。したがいまして、実務上では、各地の具体的な最低賃金基準及び調整期間には一定の差が存在しています。

●調整の頻度

『最低賃金規定』には、最低賃金基準は2年に少なくとも1回調整すると定められています。弊所の限られた情報によれば、実際には大部分の地域で毎年一回の頻度で現地の最低賃金基準が調整されているようです。

●最低賃金には、次の内容は含まれません。

①延長された勤務時間にかかる賃金

②中番、夜勤、高温、低温、坑内、有毒有害等の特殊な勤務環境、条件下に対する手当

③法令と国が定める労働者福利待遇等

また、北京、上海等の地域の規定では、最低賃金には社会保険料、住宅積立金の個人負担分は含まれておりません。

最低賃金の理解と取り扱いにおいて、次の点で誤解が生じやすいためアドバイスいたします。

(1)会社は如何なる手順も踏まずに、最低賃金基準での支給を決定できるのか

関連する法律の規定によれば、雇用者は、生産経営が困難等の特定の原因がある場合に限り、最低賃金基準で賃金を支給することができます。なお且つ、会社内部で民主的なプロセスを履行し、当該会社の労働組合から同意を得る必要があります。なお且つ、労働保障行政機関へ報告する必要があります。上記のプロセスを履行せずに最低賃金基準で賃金を支給した場合、会社が労働機関から行政処分を受けるリスクがあります。

(2)最低賃金には、何が含まれないのか

関連する法律の規定では、最低賃金には、次の内容は含まれません。

①延長された勤務時間にかかる賃金

②中番、夜勤、高温、低温、坑内、有毒有害等の特殊な勤務環境、条件下に対する手当

③研修費用、非貨幣収入、高温手当等、法令が支給を定めている労働者の福利待遇

④社会保険料、住宅積立金の会社負担分

しかし、青島市の最低賃金基準には、従業員の個人負担部分の社会保険料及び住宅積立金が含まれます。この点が、中国各地の基準と異なっています。したがいまして、雇用者が会社の賃金が最低賃金基準より低いかどうかを審査する場合、上記の項目を含めて計算願います。実務において、一部の会社の支給する賃金は、最低賃金より高いものの、時間外勤務賃金を差し引いた後は、最低賃金を下回る可能性があります。このようなケースも、最低賃金基準に関する規定に違反したことになります。

 ここ数年、中国各地の政府自治体は頻繁に現地の最低賃金基準を上方調整してきました。2011年から2015年の5年間の中国各地における最低賃金基準の年平均調整幅は13.1%前後に達しています。今年、この原稿を掲載する日までに、弊所が把握している限られた情報によれば、8つの省と市で最低賃金基準が調整されているようです。『労働法』の関連規定では、雇用者が従業員のために賃金(試用期間中の賃金を含む。)を支払う場合、時間外勤務賃金等の関連費用を差し引いた額が、従業員が働いている場所の最低賃金基準を下回ってはならないとされています。したがいまして、企業の皆様におかれましては引き続き現地の所管機関の最低賃金基準に関する動向に関心を払っていただき、所管機関の発表した最低賃金基準及び要求に基づいて、社内の賃金規定、労働契約、具体的な賃金の支給等についてコンプライアンス審査を行い、最大限違法と見なされるリスクを下げることを、お勧めいたします。

作成日:2016年07月22日