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最高裁より保険法司法解釈(3)が公布される

11月26日、中国の最高裁は記者会見を開き、『「中華人民共和国保険法」の適用に関する若干の問題についての最高裁の解釈(3)』(以下「解釈3」という。)に関連する情報を発表した。
これによれば、「解釈3」は、2015年12月1日より施行されるという。

最高裁民事第2法廷の劉竹梅副廷長は、「解釈3」が制定された背景及び主な内容について次の通り説明を行った。

1.「解釈3」が制定された背景

保険業は、現代金融システムの重要な柱である。ここ数年、中国の保険業の発展は目覚しく、2014年8月、国務院から『現代保険サービス業の迅速な発展に関する若干の意見』(新国10条)が公布され、現代保険サービス業を速やかに発展させることが求められた。中国の保険業は、保険大国から保険強国の段階へと邁進し、国の経済社会発展において、より重要な役割を発揮するようになってきている。また保険業の繁栄と発展にともない、保険をめぐる紛争案件の数も連続して増加の傾向を示している。司法統計データが示すように、2009年度、中国全土での保険契約紛争案件の一審の回数は、41,752件であったが、2015年の前半10ヶ月の案件の回数は、91,555件にも増えている。

『中華人民共和国保険法』(以下『保険法』という。)は、1995年に公布・施行されて以来、これまで3回改訂されている。うち2009年には、『保険法』の保険契約という章に大きな変更が加えられ、保険契約にかかる法制度の整備が進められた。但し各方面からの制約を受けたため、『保険法』の保険契約という章が占める割合は低くなってしまい、関連する規定は原則的なものに留まり、保険市場の発展と保険に関する裁判での実際的な必要性を満たすものには至らなかった。このため、最高裁は『保険法』についての司法解釈作成業務をスタートさせた。

2009年10月と2013年6月の2回、最高裁は新旧『保険法』の適用の隙間の問題及び『保険法』保険契約という章の一般規定の適用について存在する問題を解決するため、『「中華人民共和国保険法」の適用に関する若干の問題についての最高裁の解釈(1)』及び『「中華人民共和国保険法」の適用に関する若干の問題についての最高裁の解釈(2)』を相次いで公布した。本日公布する「解釈3」では、『保険法』保険契約の章の人身保険部分の適用について存在していた論争を解決することに重きを置いている。

「解釈3」では、保険に関する裁判における実務上の必要性への適合性をより高め、保険及び金融業の発展に寄与するため、最高裁民事第2法廷が、より詳細な調査・研究及び充分な検証を行った。作成の過程において、我々は、各レベルの裁判所、全人代常務委員会法制工作委員会、国務院法制弁公室、保険監督管理委員会及び保険業協会から広く意見を求め、保険法の専門家から意見を聞き、また最高裁のウェブサイトを通じて幅広くパブリックコメントを求めた。

人々が健康を日々重視してきていることに伴い、多くの人が人身保険に加入し、人身保険契約をめぐる紛争も増加傾向にある。また「解釈3」は、金融消費者の合法的な権利及び利益を保護し、保険業と金融業の健全な発展に対しても、重要な意義を持っている。

我々は、司法解釈を作成するにあたり、人身保険契約の特徴に対して、次の指導原則を堅持した。
1.道徳リスク発生の予防を重視する。人身保険は、人の寿命及び体を保険のターゲットとしており、道徳リスクの発生は、被保険者の生命の健康が侵害されることを意味している。したがって、道徳リスク発生の予防は、人身保険契約において、最も重大な任務である。
2.保険消費者の保護を重視する。保険消費者保護の重視は、各国の保険契約立法の基本的な原則であり、歴代『保険法』改訂の基本理念でもある。「解釈3」の制定も、この原則を体現している。
3.保険のイノベーションを支持する。現代の人身保険は、伝統的な生命保険、医療保険、事故傷害保険に限らず、投資機能を持つ万能保険、配当保険、投資連帯保険等の保険商品の発展、イノベーションが活発である。「解釈3」はイノベーションの奨励を堅持し、新型の保険商品の発展の条件を提供していく。
4.保険契約の法的関係を明らかにする。人身保険契約の主体は、保険業者と保険加入者を除き、被保険者と受益者が存在し、法的関係が複雑である。「解釈3」では、契約の相対性という基本原理に則り、保険加入者を保険契約の当事者として保険契約法の関係を構築し、これと同時に被保険者の合法的な権利及び利益の維持・保護に重きを置いた。

2.「解釈3」の主な内容

「解釈3」の主な内容には、次の6点が含まれている。

(1)人身保険の利益のため積極的に審査を行うことを原則とすることを明確化し、道徳リスクを予防する。人身保険は、人の生命健康を保障の対象としているため、道徳リスクの予防についての責任が重大である。他人が保険金獲得のために被保険者の殺害を謀ることを防止するため、『保険法』第31条では、保険加入者が保険契約を締結する際には、必ず被保険者が保険に加入することで利益を得ることを求めている。第34条では、死亡により保険金を給付することを条件としている保険契約では、被保険者の同意を得ることと、保険金額の承認を求めている。以上の規定の目的は、被保険者の利益を保護し、被保険者が他人の保険加入行為により傷害を受け、社会公共関係の利益、契約の効力に直接影響を及ぼすことを避けるためである。民事訴訟の基本的な原理に基づき、こうした契約の効力、社会公共関係の利益に影響を及ぼす事柄について、裁判所は事件を審理する際、積極的に審査すべきである。このため、「解釈3」第3条では、各レベルの裁判所が人身保険契約紛争を審理する際、保険加入者が保険契約を締結する際に、保険を締結する利益を備えているかどうか、死亡を保険金給付の条件とする契約について被保険者からの同意を得ているか、保険金額を承認しているか積極的に審査することを求めている。その目的は、各レベルの裁判所の道徳リスク予防意識を高め、被保険者をより良く保護するためである。

(2)死亡保険の関連規定を細分化し、保険取引を奨励する。死亡保険は、被保険者の生命を保険の対象としているため、その関係が重大である。死亡保険の中に存在する可能性のある道徳リスクを防止するため、『保険法』第33条、34条では、死亡保険について特別な規定を設けた。しかし実践において、以上の規定を不当に適用するという問題が存在している。保険会社によっては、保険契約の際には、死亡保険の締結が以上の規定に合致しているかどうかを積極的に審査しないにも関わらず、保険にかかる事故が発生した際には、却って保険契約が以上の規定に違反していることを理由に、保険契約の無効を主張して保険金の給付を拒否している。こうした問題に対し、「解釈3」第1条では『保険法』第33条と第34条の規定を細分化している。

(3)健康診断と事実通りに告知する義務を規定し、信義則の維持・保護を明確化した。人身保険会社は、特定の種類の保険契約をする際、リスクを抑えるため、被保険者に対して健康診断を行う。被保険者が保険会社の手配した健康診断を行った後、保険加入者が事実通りに告知する必要があるかどうかについて、裁判の実践では異なる観点が存在していた。当該問題について、「解釈3」第5条では、被保険者が保険契約を締結する際には、保険業者が要求する指定の医療機関で健康診断を行い、保険加入者が事実通りに告知する義務が免除されないことを明確化し、最大限信義則を奨励するものとした。保険業者が被保険者の健康診断の結果を知りながら、保険契約の締結に同意した場合、棄権を構成し、保険加入者が関連する状況について事実通りに告知する義務を履行しなかったことを理由に契約の解除をしてはならず、解除した場合には信義則に違反するものとした。

(4)保険契約の効力回復の条件を明確化し、契約の効力を維持する。人身保険契約の存続期間は長期に及ぶため、保険加入者が任意の期間の保険料を速やかに支払わなかったことを理由に保険業者が保険契約を解除することを防止するため、『保険法』第37条では効力回復制度が確立されている。しかし、その規定によれば効力の回復には、「保険業者と保険加入者が協議を行い合意に至ること。」が必要とされており、効力が回復できるかどうかの決定権は保険業者に委ねられ、保険加入者から効力回復申請の権利を奪い、保険契約の効力回復制度は、あるべき機能を失なっていた。このため、「解釈3」第8条では、保険加入者から効力回復の申請が提示され、なお且つ保険料の追完納付に同意した場合、被保険者の危険性の程度が中止期間中に著しく増加した場合を除いて、保険業者は原則上として効力を回復しなければならないと規定した。保険業者が効力回復の申請を受け取ってから長期間回答しないことを防止するため、「解釈3」第8条では、保険加入者への回答期限を規定した。

(5)受益者の指定と変更を制度化し、受益者の受益権を保護する。受益者は、人身保険契約における独特な一種の主体であり、保険加入者又は被保険者による指定に基づいて、保険金の請求権を持つ者である。実践において、受益者の指定は、一般的に保険様式条項で事前に決められ、保険加入者又は受益者が選択するものである。保険様式条項が明確ではないか、被保険者の身分関係の変化により、受益者を如何に確定するかについて、実務上で紛争が存在している。「解釈3」第9条では、実践において紛争が特に存在するケースについて規定した。

保険加入者又は被保険者が受益者を指定した後でも、受益者を変更することができる。受益者の変更について、実践においては、受益者の変更は保険業者からの同意をとり、なお且つ保険業者からの承認されてから初めて効力が生じるという考えもある。しかし、こうした観点は、変更行為が一方的な法的行為に該当するという特徴に合致しておらず、保険加入者と被保険者の自主决定権の実現という点で不利と思われる。このため、「解釈3」第10条では、国外の関連する方法を参考に、保険加入者又は被保険者による受益者の変更は、受益者変更の意思表示を行った際に発効すると規定した。また、保険業者の合理的な信頼を保護するため、受益者の変更を保険業者に通知しなかった場合、保険業者に対抗してはならない規定とした。

(6)医療保険の様式条項を制度化し、対価とのバランスを維持する。医療保険は、人身保険の重要な一種類である。実践において、医療保険の様式条項の商業医療と社会医療の関係について、基本医療保険の基準での医療費の審査、固定医療条項の効力等の問題で大きな紛争が存在している。これについて、保険業者の保険請負リスクと保険加入者の保険料支払は、バランスを保持すべきという基本原理に基づき、「解釈3」第18条、第19条、第20条で次のように規定した。「保険業者は、被保険者が公費医療又は社会医療保険から賠償金を得ることをにより保険料支給の控除を求めようとする場合、保険料率を定めた際、既に公費医療又は社会医療保険の相応する部分を控除され、なお且つ控除後の基準に基づいて保険料を徴収することを証明しなければならない。保険契約において、基本医療保険の基準で医療費を査定すると約定している場合、保険業者は基本医療保険と同種の医療費基準で保険金を給付しなければならない。被保険者が緊急事態のため直ちに治療を受けなければならない場合を除き、被保険者が保険契約で約定していない医療サービス機関で治療を受けた場合、保険業者は保険金の給付を拒否することができる。
この外、「解釈3」では、保険金請求権の譲渡、被保険者の遺産の保険金給付、受益者と被保険者の同時死亡の推定、故意の犯罪を如何に認定するか等の問題について規定を設けた。

「解釈3」の発表は、最高裁が法に基づいて保険消費者の権利を保障し、保険市場の健全な発展を促す上での重要な措置であり、各レベルの裁判所が保険契約にかかる紛争を正確に審理し、当事者間の紛争を適切に処理し、公平な市場取引秩序を維持して、保険業の健全な発展を促進していく上で重要な意義を持っている。裁判所は、その裁判機能を充分に発揮し、国の法律が正確に統一的に実施されることを保証し、経済・社会がより良く、より早く発展していくために有力な司法上の保障を提供するものである。
(法制ネットより)

作成日:2015年12月09日