コロナ及びその他のホットな話題

「従業員の福利厚生」を利用した偽装契約?

   一部の日系企業では、春節や中秋節などの祝祭日に、従業員にお祝い品や特別手当てを支給することがあります。実務上、労働組合の経費を使用し会社がこれらを購入し支給するのが一般的です。では、こうした従業員の福利のために外部と虚偽の契約を締結することは、果たして犯罪になるのでしょうか。また犯罪になるとしたら何罪にあたるのでしょうか。また、企業はこの点について、どのように対応するのがベストでしょうか。今回は、日系企業の皆様にご参考いただける事例に基づいた分析と、その注意点を以下に紹介いたします。

◆事例の概要
   王氏はある外資系会社(以下「A社」という)の労働組合の主席です。2023年1月8日、A社は春節休暇の前に、従業員が休暇を利用して行楽を楽しめるよう、従業員に祝祭日のお祝い品とともに、旅行券や娯楽施設のチケットを配布することにしました。
   旅行券や娯楽施設のチケットを購入する際、王氏はある旅行会社と結託し、期限切れ間近のチケット(実際には1枚100元の割引チケット)を1枚500元という高値で購入したと偽装してその旅行会社との契約を交わし、A社は旅行会社に25万元(20万元水増しされたもの)を支払い、旅行会社はA社にその額面の領収書を発行しました。その後、旅行会社は王氏個人に10万元を「キックバック」として支払いました。
   後日、多くの従業員がそのチケットを使用した際、すでにチケットの期限が切れ、使用できないことが発覚し、配布された割引チケットが1枚100元であったことを知った従業員が、王氏の不正行為について社内通報し、さらにA社が地元の公安機関に通報し、この事案は法的に処理されるに至りました。

◆法律による分析
   この事件での王氏の不正行為は法的な犯罪行為にあたるのか、またその場合何罪となるのか、という点について以下に簡単に説明いたします。
1. 王氏の行為は職務侵奪罪にあたる
   『刑法』第271条によると、職務侵奪罪は会社、企業またはその他の機関の従業員である者が、職務上の便宜を利用して、その財物を自分のものとし占有する行為、また、その金額が大きい行為のことを指します。本事案で、王氏は労働組合の主席として職務上の立場を利用し、不法な占有を目的として旅行会社と結托し、水増しした価格での契約を結ぶことで、会社の資金を自身の懐に収めたことにより、職務侵奪罪の構成要件を満たしているといえます。
2.王氏の横領額は職務侵奪罪の立件追訴の起点となる金額3万元を上回っている
   2022年に発表された『公安機関の管轄する刑事案件の立件訴追標準に関する最高人民検察院及び公安部の規定(2)』第76条は、職務侵奪罪の立件追訴の違法所得金額基準の起点は3万元であることを規定しています。
   つまり、本事案で王氏は、職務侵奪罪3万元の立件追訴の金額起点を超え、A社の資金10万元分を不法に占有したことになります。

◆日系企業はどのように対応すべきか
   実務上、従業員が会社を代表して対外的な市場取引活動を行うことが増えており、一部の従業員が私利私欲のために違法行為や犯罪行為に走る可能性があり、これは会社の評判に影響を与えるだけでなく、会社に経済的な損失をもたらし、さらには会社自体の犯罪と見なされる恐れもあり、会社や法定代表者などが行政また刑事罰の対象となることもあり得ます。以下に各企業の皆様に役立つ、問題の処理方法と留意すべき点を簡単に紹介いたします。
1.規律違反者との労働を解除する際の留意点
   会社が従業員の重大な規律違反を理由に労働契約を解除するときは、次の点に注意しましょう。
①『従業員ハンドブック』に関連する違反行為に対する明確な規定を含める。
②従業員の規律違反行為の証拠を収集し、その証拠を固める。
③会社の『従業員ハンドブック』の制定・改正が法定の民主的手続き(従業員、労働組合と協議し、従業員に公示・公告)を確実に履行し、関連する証拠を保留する。
紛争が発生した場合、労働仲裁機関、裁判所が案件の事実証拠を審査するため、関連する証拠がない場合、会社側の違法な労働契約解除と見なされ、巨額の経済賠償金の支払いを余儀なくされる可能性があります。
2.すべての従業員または販売員が会社を代表した契約を締結する権限を持つ訳ではないので、企業はより慎重に従業員に授権しなければならないといえます。
   また、従業員が重大な対外的契約を締結する場合、現地専門弁護士による取引相手に対する事前の背景調査や契約に際して専門的な法律面での審査を行うことが可能です。
3.会社の財務清算制度、会社内部と会社外部の監督体制を確立し、従業員が事務用品、出張、接待費を清算する際、清算内容と関連書類の審査を強化し、頻繁に各種名目での清算を申請する従業員に着目し、重点的に留意します。
   また、外部の第三者弁護士や機関にて通報ホットラインを設立することも、従業員の規律違反行為に対する監督管理を強化する一つの方法です。
4.現地弁護士による会社の経営幹部及び従業員に対するコンプライアンス・トレーニングを行い、会社と従業員の規律違反行為をできる限り回避することができます。

作成日:2023年04月23日