企業における労務処理

防疫対策要求に従わない従業員を解雇することは可能か

   最近、吉林省、青島市等多くの地域で多数の感染者が出ており、人の移動が制限されています。ある企業では、従業員が行動歴を偽ったために別の従業員が自宅隔離させられたことで、会社の正常な生産経営に影響が出ました。そのような場合、防疫対策の要求に従わなかった従業員に対し、会社としてどのような処分をすべきか、直接解雇できるのかといった問題に、企業の関心が集まっています。
   これまでにも広東省、上海市、山東省等で、防疫対策の要求を遵守しなかった従業員が解雇された類似の事件が発生していました。今回は上海市の裁判所で結審された案件をご紹介し、分析いたします。

◆ 事件の経緯
   上海市のA社にコックとして勤務していた陳氏は、2020年2月2日、会社から「上海帰任通知」を受け取り、防疫対策要求に従い感染対策と自主隔離を適切に行うようにとの指示とともに、上海に戻る時期を尋ねられた。陳氏は2月8日に戻る予定であると返信したのに対し、会社は上海に戻ってから1週間自主隔離したうえで出勤を再開するよう指示した。その後街道による調査で、陳氏は上海に戻ってから隔離していなかったことが判明し、会社から本人に行動歴についての補足説明と資料の提出を求め、事実通りに行動歴を申告しなかった場合の措置についても告知した。それでも陳氏が行動歴を事実通りに報告しなかったため、A社は会社の規則制度及び防疫対策要求への重大な違反として、陳氏との労働契約を解除した。
   陳氏は労働中仲裁、訴訟を申し立て、会社が違法に労働契約を解除したことの認定と経済賠償金の支払いを要求したが、労働仲裁、一審、二審裁判のいずれでも、陳氏の訴訟請求は支持されなかった。

◆ 弁護士によるポイント分析
1.会社による行動歴の事実通りの申告要求は適法かつ合理的である

   コロナ対策において、政府は会社に従業員の行動歴を把握するよう要求し、会社が業務を再開できるために、従業員の健康状況及び業務復帰前の行動歴を一斉調査するものであるため、会社が陳氏に事実通り行動歴情報を申告するよう求めることは、適法かつ合理的であるといえる。
2.就業規則の中で、従業員が事実通りに報告しなかった場合の法的結果を明確に規定していた
   A社では、従業員規則制度の中で明確に、「従業員が会社に虚偽の資料又は事実通りでない報告を提出した場合、会社はただちに退職させることができる」とし、また遵守しなかった場合の規律処分(解雇を含む)についても規定していた。なおかつ、陳氏は就業規則の内容を確認し、同意したうえで署名していた。さらに、会社は今回、陳氏に行動歴についての補足説明を求め、事実通りに報告しなかった場合の措置についても繰り返し告知していたが、陳氏は一度も事実通りに報告しなかった。
   このため、A社が陳氏の規則制度及び防疫対策要求への重大な違反を理由に契約を解除したことは、適法かつ合理的である。

◆ 日系企業へのアドバイス
   実務において、企業が感染対策を理由に従業員を違法解雇する事態を防ぐため、法律や関連労働政策では会社による一方的な労働契約の解除が厳しく制限されており、日系企業でも労働契約の一方的解除権は、慎重に行使する必要があります。会社側は十分な証拠をもって契約の解除が適法かつ合理的であることを証明できなければならず、例えば就業規則で明確に、従業員が防疫対策要求を遵守しない場合の結果として解雇も可能であることを定めており、就業規則の実施にあたり民主的プロセスや、従業員への公示・告知の手続きを履行したことの証拠を保管し、提出することが必要となります。
   このほか、会社が一方的な契約解除をするには事前に労働組合への通知を行う必要があります。適法に従業員解雇を済ませるには、手続きの全過程対応に弁護士を参与させ、現地裁判所の裁判規則についての調査、労働局、労働組合との交渉を委託することをお勧めします。その際、後に労働仲裁や訴訟が発生した場合に備え、書面や録音の記録を取っておくと、最も有効な証拠として活用することができます。

作成日:2022年03月23日